超小型店にエシカル新業態……イオン九州、新フォーマット続々開発のねらい
※この記事は、約3か月前にDCSオンライン+会員向けに公開した記事を、フリー記事として再公開しています。
イオン九州(福岡県/中川伊正社長)が新フォーマット店舗の出店を加速させている。4月24日に新業態「b!olala(ビオララ)ワン・フクオカ・ビルディング店」(以下、ワン・フクオカ・ビルディング店)を、5月22日には売場面積約60坪の同社最小店舗「マックスバリュエクスプレス東比恵店」(以下、東比恵店)をそれぞれ福岡市内にオープンした。
高付加価値商品を揃える専門店と、日常使いのコンパクトスーパー。コンセプトやターゲットが大きく異なる2店舗の出店から見えてくる、イオン九州のねらいとは──。
売場面積約60坪の“超小型”店舗
「マックスバリュエクスプレス」は、「近くて便利な、コンパクトスーパーマーケット」をコンセプトとする都市型小型店舗で、イオン九州の戦略フォーマットの1つだ。近年は、物件確保が困難になりつつある福岡市内での出店余地を広げるため、従来よりもさらに小型モデルの確立を図ってきた。

●開業日: 2025年5月22日
●所在地: 福岡県福岡市博多区東比恵3-19-17
●売場面積: 198㎡
●営業時間: 7:00~24:00
●アクセス: 福岡市営地下鉄「東比恵」駅から徒歩3分
その第一歩となったのが、2024年7月開業の「マックスバリュエクスプレス下呉服町店」だ。それまでイオン九州のマックスバリュエクスプレスは売場面積120~150坪を標準としていたが、同店は約80坪という当時の最小サイズで出店。そして今回、“最小記録”を更新するかたちで開業したのが東比恵店だ。
イオン九州エクスプレス事業部事業部長の柿塚俊介氏は「マックスバリュエクスプレスが理想とする売場面積は100~120坪。その約半分にあたる約60坪での出店は、かつてない大きなチャレンジだった」と振り返る。
超小型でも生鮮充実、 コンビニと差別化
東比恵店周辺は、オフィスビルやマンションが集積し、1人暮らしのビジネスパーソンや単身の高齢者といった少人数世帯が多いエリアとなっている。

取り扱いSKU数は約3800と標準店の半分を下回るが、「コンパクトスーパー」というコンセプトのとおり、青果や精肉の品揃えを十分に確保。一方で非食品は最低限のアイテムにとどめている。「コンビニエンスストア並みに小さいが、即食商品に偏らず生鮮もしっかりと置いているのが売りだ」(柿塚氏)。
売場を見ると、入口すぐに総菜をはじめとする即食コーナーを設置する。総菜は、徒歩6分の場所にある「マックスバリュエクスプレス比恵町店」(以下、比恵町店)などから供給されており、店内に厨房は設けていない。イオン九州のマイクロプロセスセンター「旬鮮工房」で製造した寿司や刺身も販売している。

壁面は冷蔵・冷凍ケースが並び、青果、精肉、日配、冷凍食品、飲料と売場が続く。青果や精肉は日常づかいのアイテムをひととおりラインアップし、細かく量目対応をとっている。
とくに充実させているのが、調理が簡単な下ごしらえ済みの野菜や味付き肉だ。日配は食べきりサイズの豆腐や小分けの漬物などの少人数世帯を意識した商品を強化。冷凍食品はワンプレート商品や冷凍野菜を豊富に揃える。店内中央には、酒類や加工食品、日用品がバランスよく配置されている。


東比恵店の従業員数は20人(延べ人数)と少ないため、運営面では省力化を徹底している。各部門の縦割りをなくし、特定の売場に固定せずに業務全般をシフト制でローテーションすることで、効率化する。
また、接客業務の負担を軽減するため、レジはすべてセルフレジを導入。加えて、比恵町店と連携をとり、総菜の供給のほか、人員も必要に応じて行き来する体制とする。イオン九州のマックスバリュエクスプレス事業では、ほかのエリアでも徒歩圏内の2店舗をセットで運営する同様のモデルを展開している。

発注業務の省力化も進んでいる。グロサリーや日配品には自動発注システムを導入。総菜部門については、本部の商品部が発注案を作成したうえで、店舗側は必要に応じて微修正するシステムを取り入れている。

超小型店が福岡攻略のカギ
東比恵店の立ち上がりは順調で、「60坪でも十分にやっていける手応えを感じている」(柿塚氏)という。今後は標準サイズの100~120坪と、超小型の60坪の2本立てで出店を進める方針だが、「ただ小さくすればよいという話ではない。重要なのは、『コンパクトスーパー』のコンセプトを体現しながら出店を広げていくことだ」と柿塚氏は強調する。
今回のような超小型店の展開は、都市部の限られた場所でも店舗網を拡大する有力な手段となる。とくに福岡市は、九州で人口が増加している地域の1つであり、極めて重要なマーケットだ。
「マックスバリュエクスプレスは、1店舗当たりの売上規模こそ小さいが、多店舗展開により“面”で商圏を押さえる戦略をとる。東比恵店は福岡エリアの出店余地拡大の可能性を探るうえで、試金石となる店舗だ」(柿塚氏)。
イオン九州は、25年度だけでマックスバリュエクスプレスを15店舗を新規出店することを目標に掲げる。柿塚氏は「福岡市内だけでも100店舗は展開できる余地がまだあると見ている。東比恵店の成果を足掛かりに、今後さらに出店を加速させていきたい」と意欲を見せた。

話題の商業施設内に初の単独店を出店
「b!olala(ビオララ)」は、「オーガニック」「ナチュラル」「ヘルス&ウェルネス」「サステナビリティ」をコンセプトとするイオン九州の新ブランドだ。ワン・フクオカ・ビルディング店は、同ブランド初となるスピンアウトでの単独出店。
福岡市天神に開業した複合商業施設「ワン・フクオカ・ビルディング」の地下2階にあり、旗艦店に位置づけられる。

●開業日: 2025年4月24日
●所在地: 福岡県福岡市中央区天神1-11-1
●売場面積: 387.8㎡
●営業時間: 10:00~20:00
●アクセス: 福岡市営地下鉄「天神」駅から徒歩2分
同社がビオララを立ち上げたのは、オーガニック市場の拡大や国の政策方針を受けてのことだ。イオン九州では、これまでマックスバリュなどの店内にイオン(千葉県/吉田昭夫社長)グループのオーガニック&ナチュラルブランド「トップバリュ グリーンアイ」などの商品を導入してきた。その結果、イオン九州におけるオーガニック商品の売上高は19年から5年で約5倍へと成長している。


一方、国も有機農業拡大に向けて動き出している。農林水産省は21年策定の「みどりの食料システム戦略」で、50年までに国内耕地面積の25%を有機栽培に転換する目標を掲げた。
イオン九州食品商品本部で本部長を務める西嶋洋一郎氏は「小売業を営む私たちにできるのは、商品を販売する場所をつくることだ。市場の拡大もあり、オーガニック商品の販売に力を入れていこうと考えた」と語る。
単独店の出店に至るまで、同社は綿密な準備を進めてきた。「ワン・フクオカ・ビルディング」の近隣にイオン九州の総合スーパー(GMS)「イオンショッパーズ福岡店」が立地することから、通常の食品スーパー(SM)ではなく専門店というかたちを選んだ。
「約2年もの時間をかけてゼロから商品政策(MD)を構築した。九州の玄関口の一等地で周辺に百貨店や専門店が多いなか、いかに違いを出すかという点が最も苦労した」(西嶋氏)。23年に「イオンマリナタウン店」(福岡県福岡市)内に約20坪の店舗をショップインショップ形式で実験的に出店。その後も同様に3店舗の出店を重ね、MDを磨き上げていった。

専門店で際立つ商品ストーリー
ワン・フクオカ・ビルディング店は、生鮮やグロサリー、ヘルス&ビューティーケア(H&BC)などを販売する通常エリアと、同店から新たに追加した「発酵ビオララ」の2エリアで構成される。売場面積は通常エリアが約80坪、発酵ビオララが約40坪で、売場全体で約3000SKUを扱う。

通常エリアでは、全国各地から集めたオーガニック野菜、成長促進剤や保存料不使用の肉や魚、素材や製法にこだわった菓子・調味料・サプリメントなどの商品がずらりと並ぶ。いずれも健康志向の高まりやサステナブルなライフスタイルを意識した品揃えだ。
非食品も充実しており、H&BCでは、自然由来成分を使った化粧品やナチュラル処方のドッグフード、環境負荷に配慮した日用品などを展開。売場の一角では、ドライフルーツや洗剤の量り売りを実施し、エシカルな購買体験を提供する。

発酵食品に特化した発酵ビオララでは、全国各地のご当地味噌や醤油をはじめ、麹や甘酒、漬物、自然酒などの多彩な商品が所狭しと並ぶ。同エリアでとくに力を入れたのが、既存店では展開できなかった「発酵デリカテッセン」と「発酵ベーカリー」だ。
発酵デリカテッセンでは、味噌メーカー大手のマルコメと組み、発酵素材を生かした総菜やスイーツを九州で初めて展開。発酵ベーカリーでは、九州地場ベーカリー大手の「フランソア」と組み、天然酵母を使用して低温で長時間発酵させた風味豊かなパンを扱う。


ビオララの品揃えはSMでは売れにくい高価格帯の商品が中心だ。既存店だとその価値が埋もれてしまう商品でも、ビオララに置くと動きがよくなるという。「ビオララにおける商品価値とは、原料や製造工程のこだわりといったストーリー性だ。コンセプトが明確な専門店だからこそ、商品の背景やストーリーがお客さまに響く」(西嶋氏)。
売場では、各所に紙のPOPを挟み、文章で商品の魅力を発信する。また、プライスカードには「オーガニック」「ナチュラル」と商品のポイントを色分けして端的に示している。
加えて、接客も強化して、POPだけでは伝えきれない価値や魅力を発信する。発酵ビオララでは、メーカーの協力のもと、毎週交代で試食販売も毎日実施。「まずは実際に見たり、店員とのコミュニケーションを通じて、商品の背景やストーリーを楽しんでもらいたい」と西嶋氏は話す。
滑り出しは好調、若年層も取り込む
開業以降、同店の売上は当初の想定を上回り、順調なスタートを切っている。現場で想定以上だったのが、来店客層の広がりだ。もともとは40~60代の女性をメーンターゲットに据えていたが、週末は20~30代やカップルの姿も多く見られ、幅広い層の来店につながっている。
西嶋氏は「これまで取り込めていなかった若年層のニーズにも対応できている。その意味では、ビオララのMDは当社の資産価値になった」と手応えを語る。
今後は、同店で磨き上げてきたMDをベースに、福岡市内の既存店舗を中心にカテゴリーブランドとして横展開していく。発酵デリカテッセンはラインロビングも視野に入れ、独自性をさらに高めていく考えだ。
●
マックスバリュエクスプレスの超小型フォーマットの展開や、ビオララの専門性を軸とした新ブランドの開発は、市場やお客のニーズの変化に対応するイオン九州の積極的な姿勢を示している。こうした挑戦の積み重ねが、同社の持続的な成長を支えていくことになりそうだ。
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