【レポート】大競争時代を勝ち抜く新しいスーパーマーケット創造2019

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【講演②】

株式会社阪急オアシス 取締役執行役員 西本和也氏
「阪急オアシスの商品政策」
初年度計画を上回るJR大阪駅の「キチマ」

株式会社阪急オアシス 取締役執行役員 西本和也氏

グループのスーパー統合を機に「高品質食品専門館」打ち出す

 阪急オアシスは、阪急阪神グループの傘下にあるエイチ・ツー・オー リテイリングの事業会社の一社であるエイチ・ツー・オー食品グループの中核となっている。エイチ・ツー・オー食品グループにはそのほかにイズミヤ、阪急デリカアイ、阪急ベーカリー、阪急フーズなどがある。店舗は大阪、兵庫、京都、滋賀の各府県に77店舗あり、売上高は17年度に約1200億円の規模である。

 阪急オアシスは2008年に阪急ニッショーストア、阪急ファミリーストア、阪急フレッシュエールを吸収合併しているが、競争が激しくなるなかで生き残りのために2009年7月に打ち出したのが「高品質食品専門館」というコンセプトだ。その3つのキーワードは「専門性=価値訴求商品の磨き上げ」「ライブ感=対面販売などによるお客様とのコミュニケーションの場」「情報発信=POPやキッチンステージなどを通じた価値訴求商品のお客様への伝達」である。

 普通のSMではなく、アッパーミドルをメーンターゲットに、ベースとなる商品を絞ったかたちでクオリティを高めていく。もちろんアッパーミドルだけではなく、幅広い客層にわれわれが選んだ高品質の商品価値をアピールしていく。

デリカやベーカリーなど「おかず比率」を2020年には30%に

 今、SM業界は同業同士の競合だけでなく、食品も扱い始めたドラッグストアや百円ショップ、コンビニエンスストア、ネットスーパーなど本来SMの市場での陣取り合戦が激しくなっている。しかも市場は少子高齢化、人口減少で縮小する方向にある。事業拡大を継続させるためには、従来の業態論から脱し独自の立ち位置を確立すること、新たな市場を創出する工夫と努力が不可欠になっている。そのため食品の領域ならば、たとえば外食の領域からシェアを取ることも念頭に入れる必要がある。

 昔からSMは「冷蔵庫の代わり」「ダイニングキッチンの代わり」「リビングダイニングの代わり」などと変化してきた。食材を提供する立場に加えて、食事を提供する機能も担うようになってきた。実際、店舗を見ても農産や水産、畜産物よりも、デリカやベーカリーなどの売上が伸びている。デリカやベーカリーのシェアをわれわれは「おかず比率」と呼ぶが、現状の20%程度から2020年には30%に高まるとみている。

図表3●SM業界の規模縮小の構図
図表3●SM業界の規模縮小の構図

海外のマルシェ=市場を参考に賑わいの創出ねらう

 2009年7月に「高品質食品専門館」の1号店として「千里中央店」をオープンし、15年11月に「箕面船場店」を展開。さらに17年7月にはNSC型のオアシスタウン「伊丹鴻池店」、都市型スーパーなど新業態を展開してきた。そして18年4月1日にJR大阪駅のルクア大阪に開設したのが「キッチン&マーケット」(キチマ)である。

 もともと「キチマ」は、21年5月に三宮の神戸阪急ビル内に1号店をオープンすることを決めていた。そこにJR西日本SC開発から話が持ち込まれ、急遽、梅田の大阪駅ビルで先行して展開することになった。大阪駅は1日の乗降客数が約230万人と関西一のターミナル駅だ。サラリーマンもいれば、旅行客もいるし、阪急や阪神、大丸など百貨店もひしめいていて大阪の主婦も買物に訪れる。そして、外国人観光客も多い。

 新たな店舗づくりを考えるなか、着目したのが物販と飲食の融合が世界の潮流となっていることだ。リスボンのタイムアウトマーケットやロンドンのバラマーケット、ニューヨークのグランドセントラルマーケット、台北の上引水産などを見学し、大阪駅というターミナルで物販と飲食の融合を図った業態を展開することを決めた。コンセプトは「欧風テイストの市場感と賑わいの両立」であり、市場ならではの対面販売や広場で買ったものを飲食できるような、市場の賑わいを取り入れたデザインとした。

 「買う!食べる!集まる!が、ここにある」をキャッチフレーズに、輸入食材や飲料、ピッツァや生パスタを提供する「メルカ」(①)、スイーツとカフェのある「スイーツアットホーム」(②)、青果や鮮魚、精肉に加えてミートレストランやBBQを設けた「フレッシュガーデン」(③)、デリカを扱う「デリステーション」(④)、日本の厳選した食品や飲料を扱う「グルメコーナー」(⑤)、ベーカリーの「ラ・プチ」(⑥)に加えて、中心部には買ったものを持ってきて自由に食べられる「ミート&イートスクエア」(⑦)を設置した。

図表4●キッチン&マーケットの店内レイアウト
図表4●キッチン&マーケットの店内レイアウト

新設店にも「キチマ」併設など展開の拡大を継続

 新業態の「キチマ」だけに、初年度に成功するかどうか正直不安だった。「物販が成功のカギ」と考え、そのための工夫を盛り込んだことにより、初年度は20億円の予算に対して、それを超える売上を達成しそうだ。

 当初、梅田界隈はオフィスが多いのに飲食店が少なく“昼食難民”が「キチマ」に集中する、と見込んでいた。実際には午前中から買物客が「ミート&イートスクエア」でおしゃべりしたり飲食したりしており、サラリーマンが押し掛ける余地がなかったようだ。その代わり、夕方以降はサラリーマンやOLなどのグループがワインを買って飲み、総菜を買って食事することでにぎわっている。買った肉を焼いてお酒も持ち込めるBBQコーナーも設けたが、そこも盛況だ。

 ちなみにワインは1日300本、月間1万本程度は売れる。1000~2000円のワインがよく売れる。なかには数万円のものも置いてあり、1人で60万円分購入したのがこれまでの記録だ。当初300席を用意した「ミート&イートスクエア」は、順調に稼働というよりむしろ席数が足りずに、現在では400席まで増やしている。

 「キチマ」が好評なことで今年3月に開店した新町店の一部にも「CAFÉ&BAR」として飲食スペースを設けた。ワイン用にグラスの貸し出しなども行っている。さらに今年5月15日にはJR福島駅前に「キチマ」スタイルの一部を取り入れた店舗をオープンする。8月にはNSC型のオアシスタウン「キセラ川西」を出店。そして21年5月には先ほど触れた神戸・三宮にも予定どおり「キチマ」を出店する。JR大阪駅の「キチマ」も変わり続けなければならない。そのため10月には一部デザインなどの刷新を検討しているところだ。

 

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