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中国、約7割の小売業がオンラインチャネル拡大へ、食品スーパーはサプライチェーン強化に進む

新型コロナウイルスの感染は世界各国で拡大の一途を辿っており、消費者行動にも顕著な変化が出ている。今回の記事では、前回から引き続き、感染拡大に際して中国の小売業界に見られた変化と「ポスト・コロナ(新しい日常の段階)」を見据えた動きに関してお届けする。

中国政府は、国内経済が新型コロナウイルスの感染拡大で約40年ぶりに景気後退入りする見込みの中、経済を再生させるために数兆元規模の景気刺激策を準備している。上海で撮影(2020年 ロイター/ALY SONG)

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大は、中国の小売業界、特に実店舗に大きな影響を及ぼした。しかし、一部の小売企業では十分に準備ができており、迅速に対応して危機をチャンスに変えたと言える。

 感染の拡大をきっかけに中国の小売業界は新たな視点からビジネスを見直しており、業界全体において長期的なビジネスチャンスが模索されている。ニールセンでは、感染拡大の初期段階から中国小売業界の動向をモニターしている。

 中国の主要小売企業と1万以上のスーパーマーケットなどのデータにもとづくニールセンの最新調査では、感染拡大収束後にもたらされる変化とチャンスだけでなく、感染拡大に対応する最中に小売企業が直面したさまざまな課題も浮き彫りになっている。

 ニールセン中国 社長 ジャスティン・サージェントは「新型コロナウイルスの感染拡大が中国の小売業界にとって大きな試練であることは間違いありません。しかし、中国の小売企業は総じて、この非常に不安定な環境において優れた柔軟性と回復力を見せています。多くの小売企業がリソースを迅速に整え、急激に変化する状況に機敏に対応し、ビジネス戦略の見直しを行いました。この危機からはビジネスチャンスも生まれており、新型コロナウイルスの感染拡大が小売業界の発展を加速させるだろうとの見方もあります」と述べている。

中国の小売企業が直面した課題と対応

 調査では、春節の間に状況が二極化したことが分かっている。調査対象の小売企業のうち42%が昨年の同時期と比較して売上が減少したと回答、このうち29%は売上が大幅に減少したとしている。対照的に、小売企業の44%が売上の増加を報告し、28%が著しい成長を遂げたとしている。

 業種を問わず、大手のハイパーマーケットやスーパーマーケットの多くにおいて売上は良好で、トップ小売企業は強力なサプライチェーンにより業績は好調だと回答。一方、中小企業、特にコンビニエンスストアの売上が減少していることも分かっている。また、パーソナルケアと化粧品に特化した店舗(日本で言うドラッグストア)やベビー用品店のいくつかも大きな影響を受けているが、その一方で一部のベビー用品店は、消費者の需要に応えるべくオンラインショッピングやソーシャルメディアを積極的に活用し大幅な成長を生み出している。

 ニールセンの調査では、小売企業は、特定のカテゴリーの在庫不足、物流と流通における支障、配達スタッフの不足の主に3つの課題に直面したことが明らかになっている。

 課題に直面しながらも、一部の小売企業は、リソースを迅速に配分して対応策を積極的に打ち出し、危機を機会に変えるための一連の対策を実施した。具体的には、サプライチェーン関係企業の柔軟な対応、商品供給の効率性の確保、従業員への配慮と懸念の共有、スタッフの合理的な配置、店舗営業時間の調整、オンラインチャネル・オンラインコミュニティを通じたビジネスの拡大、消費者の信頼と好印象を高めるための企業ブラディングの強化などが挙げられる。

収束後の変化とビジネスチャンス

 SARS(重症急性呼吸器症候群)感染拡大の際もそうであったように、今回も消費の量はいずれ回復するだろう。感染拡大によって試練に対峙することとなった中国の小売業界だが、収束後も引き続き、さらなる変化と新たなチャンスに向き合うことになるだろう。

 すでに、中国の多くの小売企業は、新型コロナウイルス感染拡大の先を見据えている。調査対象となった小売企業の46%が今半期の見通しについて楽観的としている。一方で、36%の小売企業が先行きを憂慮しており経営状況が厳しくなると考えている。

 2021年のビジネスチャンスと戦略に関しては、67%の小売企業が「オンラインチャネルを拡大し、基本のビジネスの仕方や小売倉庫のレイアウト変更を加速するだろう」と答えている。53%は、「消費者の購買習慣に応じて商品構成を変更し、健康関連アイテム、除菌剤、衛生関連アイテムの在庫を増やす」としている。また、小売企業の43%は、特に生鮮食品のサプライチェーンに取り組み、さまざまなブランドとの関係を強化してコミュニケーションの効率性を高めたいと答えている。

 オムニチャネル統合の加速やサプライチェーンの強化など共通する課題もありますが、戦略における優先順位は企業によって異なります。

 多くのハイパーマーケットおよび標準的なスーパーマーケットは、主に2つの側面に焦点を当てるだろうことが見えてきている。まず、サプライチェーンの改善と自社対応力構築の加速が挙げられ、デジタル変革を通じて小売機能を包括的に改善し、商品供給、プロセス管理プラットフォーム、物流と配達の時間管理のアップデートなどが予定されている。さらに、オムニチャネルオペレーションを通じて小売ビジネスを拡大し、オンラインとオフラインのショッピング体験をこれまで以上に統合していくことが見込まれている。

 生鮮食品に特化した小さなスーパーマーケットは、規模拡大の加速を計画しており、コンビニエンスストアは、近隣の需要に沿った品揃えを目指している。調査対象となった小規模小売企業の60%は、「オンラインチャネルを拡大し、標準的な店舗サービスに加えて宅配サービスを提供予定である」と回答している。また、コンビニエンスストアは、品揃えを改善し、利便性を向上させて消費者により良いサービスを提供することにより、顧客ロイヤルティの向上を目指しています。

 食料品店では、サプライチェーンのボトルネックを突破することが優先事項となり、サプライチェーンが地域の活性化において中心的な役割を果たすことが期待されている。 新型コロナウイルスの感染拡大により500万を超える中国の食料品店とそのサプライチェーンが試練に対峙した。店舗の60%は品切れに直面し、他のチャネルまたはディーラーから商品を購入した店舗はわずか1.1%、新しいeコマースチャネルを使用した店舗はわずか0.6%だった。つまり、サプライチェーンを強化するために食料品店は、地元のサプライヤーやディストリビューターとの関係を強化し、大規模で新しいデジタル供給プラットフォームの構築をする必要がある。

 パーソナルケア、化粧品、マタニティ&ベビー用品店舗も、オンラインとオフラインチャネルの統合を加速し、マーケティングイノベーションとコミュニティ運営を継続的に促進しながら、主要な商品ラインを利益に変換することに焦点を当てている。

 感染拡大の最中、パーソナルケア製品(必需品を除く)と化粧品の販売が悪影響を受けたが、結果的に小売企業はさまざまなオンライン戦術を使用することで利益を生み出し、店舗外からのトラフィックを増やして店舗で商品を販売するといった流れも生まれている。優れたオムニチャネル戦略を備えた一部のマタニティ&ベビー用品店はこの影響にうまく対処しており、オンライン&オフラインのデュアルストア運営モデルが将来的に顕著になると予想される。

 サージェントは「今回の感染拡大で中国の小売企業は多くを学んでおり、多数の企業がすでにリソース割り当ての強化、サプライチェーンの増強、マルチチャネル統合の加速などを含む、感染拡大収束後の成長戦略と回復戦略を策定し始めています。中国の小売業界は機敏さを発揮してきましたが、これが今後も引き続き重要となるでしょう」とコメントしている。

 

ニールセンは新型コロナウイルスの感染拡大が消費者行動に与える影響について最新情報を提供しています。最新情報は こちら(英語ページ)をご覧ください。


ニールセン・カンパニー合同会社では、消費者調査、ショッパー調査、販売予測、マーケティングROI分析、コンシューマーニューロサイエンス分析、海外市場情報提供などを行っています。
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