社長交代のイオン、外国人株主比率の低さが物語る大きな課題と3つの解決策
イオンの内側から透けるガバナンスを推察する
これに対しイオンの経営側から考えると、このような評価とは全く別のガバナンスの考え方が浮かび上がる。岡田氏はおそらく次のように考えているはずだ。
- イオンは社会の公器であるべき。株主利益への過剰な傾注はよしとしない。むしろ出店エリアひとつひとつの中長期的な展望を踏まえて地域貢献を念頭に長期的に投資を行うことこそ株主価値の最大化に繋がるはずだ。またバリューチェーン、ステークホルダー全体に目配りをし、サステイナビリティを高めることはこうした長期思考でなければできない。
- 個人株主が多いことはガバナンスの強化につながる。個人株主に日常的にイオンの日々のオペレーションを監視されるからだ。
- コーポレートガバナンス強化策としてイオンは指名委員会等を設置し、8名の取締役のうち社外独立取締役を5名配している。
筆者のように長年株主重視の考えが染み付いてしまった者からみると外国人投資家の考え方に与したくなるが、イオン側の考え方にも一理ある。健全なガバナンス体制のもとで、ステークホルダーに目配りしながら長期戦略を志向するというのがイオンの遺伝子であるのであれば、これはトップ交代や株主構成の変化にかかわらずぜひ継続して欲しい。岡田新会長は今後イオンの長期戦略の立案にリソースを当てる模様だが、ぜひ思うようにやっていただきたい。
財務規律を緩めては長期リターンにつながらない
親子上場の解消の道筋を示すべき
しかし、である。イオンの長期化する低ROEは、正しい長期戦略が短期利益を犠牲にしているためというよりも、以前からよく指摘される次の3つの要因によるものと考えるべきだ。
- GMS・SMの収益性が改善せず、減損が多く、しかし資本投下が継続していること
- EBITDAベースの連結ROAの水準が低いこと(筆者の試算では19年2月期のイオンの数値は連結ベースで4.6%、総合金融を除き7.4%、これに対し例えばイズミは連結ベース10.5%)
- 連結営業利益の59%、連結EBITDAの46%を占め、資本効率も遜色ないディベロッパー事業と総合金融事業を担うイオンモールとイオンフィナンシャルサービスに対するイオンの持分がそれぞれ56%と50%(19年2月期有価証券報告書)にとどまりイオン株主にとって利益の歩留まりが低いこと
そしてイオンの経営陣は、この3点に関して下に行くほど緊急度は低いと見ている節がある。イオンモールは投資案件を抱えており、イオンモールとイオンフィナンシャルサービスの少数株主に親子上場の弊害が出ているわけでもないので、現状の路線を継続し上から順に取り組んで行くべきだと考えているのだろう。
しかし、GMS・SM改革はなかなか難しく逃げ水を追うことになりかねないと筆者は考える。そこでイオンはイオンモール、イオンフィナンシャルサービス(まずはイオンモール1社でも構わない)の株式を買い付ける形で、3年程度で100%子会社化することをコミットしてはどうだろうか。今の株価であればそれぞれ2000億円強、合計4000億円強あれば買い付けは可能だ(実際にはこれにプレミアムが乗るだろう)。買い付け原資はGMS・SM改革による収益改善による負債余力の拡大でも良いし、事業ポートフォリオを精査し事業譲渡によって捻出するのでも良い。
長期戦略を腰を据えて実行できることがイオンの強みだとしても、財務規律を緩めては長期リターンにはつながらないはずである。ぜひ新体制での中期計画に事業ポートフォリオの規律を高める目的でこのような親子上場解消のスキームをビルトインすることを期待したい。
プロフィール
椎名則夫(しいな・のりお)
都市銀行で証券運用・融資に従事したのち、
米系証券会社のリスク管理部門(株式・クレジット等)を経て、
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