[ワシントン 10日 ロイター] – 米労働省が10日発表した2019年12月の雇用統計は、非農業部門の雇用者数が前月から14万5000人増と、11月から鈍化し、市場予想の16万4000人増を下回った。ただ、貿易摩擦で製造業が一段と落ち込む中でも雇用の伸びは依然として労働人口の伸びを維持するのに必要な約10万人を上回っている。
失業率は11月と同様、約50年ぶりの低水準である3.5%を維持した。現在は職を探していないが働く用意のある人(縁辺労働者)や正社員になりたいがパートタイム就業しかできない人を含む広義の失業率(U6)は6.7%と、1994年の統計開始以来の最低水準になった。11月は6.9%だった。
賃金の伸びは鈍化した。時間当たり平均賃金は0.1%(3セント)増と、11月の0.3%増からペースが落ちた。前年同月比では2.9%増。11月は3.1%増加していた。
労働人口に占める働く意志を表明している人の割合を示す労働参加率は63.2%と横ばいだった。
米連邦準備理事会(FRB)は米経済の金融政策が「良い状態」にあるとしており、今回の雇用統計はこうした見方を変える材料にはならないとみられる。
ブリーン・キャピタル(ニューヨーク)のシニア経済アドバイザー、コンラッド・デクワドロス氏は「経済は引き続き潜在成長率を上回るペースで拡大しており、今回の統計はこうした見方を変えるものではない」とした上で「FRBは今回の統計を歓迎するだろう」という見方を示した。
12月は製造業が1万2000人減少。前月はストライキを起こした自動車大手ゼネラル・モーターズ(GM)の従業員約4万6000人が仕事に戻ったことが一因で、5万8000人増と大幅に伸びていた。一方、通常より温かい気候だったことから建設業は2万人増加。政府部門も6000人増加した。20年の国勢調査に向けて今後数カ月間は政府部門の雇用の伸びが加速するとみられる。
12月の雇用の鈍化は、感謝祭の祝日が例年より遅かったことから季節調整に狂いが出たことが一因とみられる。
10月と11月の雇用者数は合わせて1万4000人下方改定された。19年全体の雇用者数は210万人。18年の270万人から鈍化した。
トランプ政権が中国と繰り広げる貿易摩擦によって景気が悪化するとの不安から、FRBは19年に3回利下げした。実際に景気は昨年減速した。第3・四半期国内総生産(GDP)は2.1%増。18年第3・四半期は3%近く伸びていた。
米中は第1段階の合意に翌週署名する見込みで、FRBの景気見通しは改善している。12月には金利を少なくとも20年末まで据え置くことを示唆した。19年第4・四半期GDPのエコノミスト予想は約2.3%増だ。
労働力不足を指摘する声が上がる中で、エコノミストは雇用が大きく抑制されることを不安視していたが、雇用は順調なペースで伸び続けている。
ただ、労働省の雇用統計が貿易摩擦による労働市場への打撃の全貌を捉えていないとの不安もある。18カ月間にわたり米中が繰り広げている貿易摩擦により製造業は落ち込み、経営破綻する企業も出た。政府は昨年8月に、同年3月までの12カ月間の雇用が合わせて50万1000人分少なかったとの試算を公表。10年ぶりの大幅な下方改定だった。改定を踏まえると同期間の月々の雇用の伸びは平均して17万人増と、当初発表の21万人増から減速したことを示唆する。20年2月に正式な改定版が公表される。
先週公表された12月10ー11日の連邦公開市場委員会(FOMC)の議事要旨によると、2、3人の当局者が、見込まれる下方改定は「19年初めにかけて雇用の伸びが当初予想ほど勢いがなかった」ことを示唆するという見方を示した。
エコノミストは、これほど大きな下方改定は多くの場合、景気後退の初期兆候であると指摘。さらに、事業の新規開業と閉鎖を基に雇用者数を算出する政府の計算方法に欠陥があると説明する。19年3月以降の雇用者数も下方改定されるとみる声もある。
今のところ労働市場は底堅く、失業率は19年に0.5%ポイント低下した。労働省は毎年年末に、5年間さかのぼり季節調整済みの世帯調査の数字を改定する。12月の雇用統計に改定は反映されたものの、失業率にはほとんど影響しなかった。