消費と社会の「多変数複雑系」な変容に直面するアパレルビジネス
消費とりわけ衣料消費は気候変動のみならず、景況感や実質所得、世代構成や家族構成、女性の労働力化など社会変化に大きく左右されている。2024年の統計が出揃ったところで、消費と社会変化を総括してアパレルビジネスへの警鐘としたい。
インフレと賃上げが相剋した24年の消費
チェーンストア売上総額は前年から3.9%減、19年からは4.7%減、食品売上は前年から3.8%減、19年からは11.0%増、衣料品売上は前年から10.2%減、19年からは24.5%減だった。食料品は健闘したように見えても、前年から4.3%、19年からは19.4%もインフレしているから、実態は前年比7.8%減、19年からは7.0%減と見るべきだ(すべて店舗調整前)。
全国百貨店売上総額はインバウンドに押し上げられて5兆7722億円と前年から6.8%、19年からも3.6%増加、同衣料品も前年から6.2%増加したが、19年からは8.0%減と回復は鈍い。総額には免税売上高が前年から85.9%増の6487億円(総額の11.24%)も含まれるから、国内客売上は5兆1234億円と前年から1.4%増、19年からは2.0%減と完全には回復していない。経済産業省の商業動態統計でも、小売業売上全体は前年を2.5%、19年を15.3%も上回ったが、衣服・身の回り品小売業売上は前年から2.8%増えても19年は20.4%も下回った。
総務省の家計調査(二人以上世帯)では、支出総額が前年から名目2.1%、19年からは3.1%増えたが、インフレで目減りして実質は前年から1.1%減。被服・履物支出は前年から名目3.5%、実質1.1%増えても19年からは名目11.7%減にとどまった。22年から続くインフレで物価が19年比で10.0%、00年からは14.1%も上昇し、実質支出は19年比で16.5%、00年比では17.1%も目減りしている。

食料品の値上がりでエンゲル係数が28.3%と19年から2.6ポイント、今世紀に入って最も低かった05年からは5.4ポイントも跳ね上がって生計が圧迫され、被服・履物係数は3.33%と19年から 9掛けに、00年からは65掛けに激減している。うちアパレル(洋服とシャツ・セーター)も1.98%と19年から9掛け、00年からは65掛けとほぼ同率に落ちている。
厚生労働省の毎月勤労統計では、24年の現金給与は前年から2.9%増加しているが、3.2%というインフレに負けて実質賃金は0.2%減と、前年の実質2.5%減、前々年の実質1.1%減と3年連続で実質所得が減少している。コロナ前19年から累積すると現金給与が5.4%増えた一方で物価が10.0%インフレし、実質所得は4.2%減少したことになる。
この間に消費課税を含む国民負担率は44.2%から22年には48.4%に跳ね上がり、24年は定額減税などで45.8%に低下すると財務省はアナウンスしているが、信用する国民はいないだろう。仮に46.0%として計算すれば、手取り名目所得は19年から7.3%減少する。
25年に入ってトランプ関税などの不透明要素が大きくインフレは加速しており、自動車業界などが賃上げをリードする環境ではなくなってきている。前年を超える賃上げ率への着地は難しく、通年で4年連続の実質賃金減少は避けられそうもない。
世代間・男女間所得移転と核家族崩壊という社会変化
実質賃金の減少が続くと言っても、若年世代と壮年・熟年世代では状況が異なり、少子高齢化の将来に備えて若年世代への社会的所得移転が加速している。
深刻な人手不足から初任給を筆頭に20代の給与は急騰しており、賃上げの恩恵を受ける20〜30代と、賃上げの恩恵が薄く教育費や住宅ローン、介護保険料負担、累進課税と所得控除圧縮のステルス増税がのしかかる40代以上で明暗が二極化していく。すでにその傾向は顕著に表れ始めており、世代別所得伸び率はもちろん、「推し」(カルチャー)消費やブランド消費でもZ世代、Y世代の勢いが加速する一方、X世代以上の大人たちは生活防衛のトレーディングダウン(格下げ消費)を強めている。
社会的所得移転は男性から女性へも進行している。
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