飲食店の後継者不足を支援するシェアレストラン 吉野家、新業態戦略の真意とは
業態多様化が生き残りの鍵に
企業にとって新事業の開発が重要であることは言うまでもないが、外食チェーンにおいてはとくにその必要性が高い。なぜなら、外食業界は 「水商売」とも称されるように、市場の変化が激しく、業態の陳腐化スピードが非常に早いという特徴を持つからだ。また、大ヒット業態が生まれると、急速に店舗を拡大して収益最大限に高める必要があるため、結果的に過剰出店が発生しやすい。その結果、「市場の飽和 → カニバリゼーション(自社競合)→ 急速な業態の陳腐化」という流れに陥ることが少なくない。
たとえば、「牛角」「金の蔵」「いきなりステーキ」 などの外食ブランドは、急成長を遂げたものの、短期間で業績が悪化した例として知られている。こうした背景から、外食業界では業態の多様化とリスク分散の重要性が近年ますます高まっている。
この業態多様化の必要性が強く認識されたのが、コロナ禍である。外食業界は、未曾有の危機に直面し、多くの企業が甚大なダメージを受けた。しかし、その影響の度合いは業態ごとに大きな差があった。
具体的には、居酒屋やディナーレストランは、夜間の営業時間制限やアルコール提供の規制によって大きな打撃を受けた。一方で、滞在時間が短く、テイクアウト対応が容易なファストフード業態は、比較的ダメージが少なかった。また、業態の特性上、排煙ダクトや換気設備が充実している焼肉業態も、売上への影響は限定的だったとされている。
こうしたなか、ワタミ(東京都) は、業態を居酒屋から焼肉へ大幅に転換することで生き残りを図った。さらに、同社の宅食部門がコロナ罹患者向けの配食事業を担い、それも経営を支える要因となった。
また、コロワイドはもともと居酒屋チェーンとして成長してきたが、M&Aによって焼肉の「牛角」、回転寿司の「かっぱ寿司」のほか「ステーキ宮」「フレッシュネスバーガー」など多様な業態を展開するようになっている。居酒屋に依存する企業と比べてコロナ禍の影響を受けにくい経営基盤を持っていたわけだ。
現在も、居酒屋業界の需要はコロナ前の水準には戻らず、依然として7割程度の回復にとどまっている。このことからも、業態の多様化が経営リスクの分散につながることが、改めて認識されたのである。
外食ベンチャーの取り込みで第2、第3の柱を育成
先述したように、外食業界は新規開業が多い一方で廃業率も高い、「多産多死」の構造となっている。その理由の一つとして、なにがヒットするか予測しづらい業界特性がある。また、新規参入のハードルが低いため、経営ノウハウを十分に持っていない経営者が多く、事業を安定的に継続させることが難しいことも要因の一つだ。たとえコンセプトが優れていても、経営を軌道に乗せられるかどうかは、経営者が適切な経営を行えているかどうかにかかっている。
こうした状況下、大手外食チェーンが有望な外食ベンチャーを取り込み、自社の経営ノウハウをもってして適切に育成すれば、第2、第3の柱となる業態を生み出す道筋をつけることができる。
外食チェーンが新業態を開発する際に、組織に属すサラリーマンよりも、挑戦心(アニマルスピリット)を持った起業家のほうが面白いアイデアを生み出すことは、筆者の経験則的にも納得できる。
外食業界では、すでにあらゆる業態が出揃い、新たな業態の開発が難しくなっている。今後は大手外食チェーンも「オープンイノベーション」の発想を取り入れ、新たな事業モデルを模索する時代になりつつあるのかもしれない。
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