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飲食店の後継者不足を支援するシェアレストラン 吉野家、新業態戦略の真意とは

中井 彰人 (株式会社nakaja labnakaja lab代表取締役/流通アナリスト)
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吉野家ホールディングス(東京都:以下、吉野家HD)は2024年10月に飲食店の事業承継を支援する新事業「アトツギレストラン」を開始した。後継者不足に悩む飲食店と開業希望者をマッチングし、店舗の継続を支援する仕組みだ。しかし、この取り組みには、単なる業界支援を超えたねらいがあるのではないか。外食業界における新業態の開発が難しくなるなか、吉野家がこの事業を始めた背景を探る。

真のねらいは「買収候補育成」か

 吉野家HDが飲食店の事業承継を支援するサービス 「アトツギレストラン」 を開始した。

 後継者不足に悩む飲食店経営者と、開業をめざす人をマッチングし、店舗の継続を支援する仕組みである。このサービスを24年10月に開始したのは、吉野家HDの100%子会社であるシェアレストラン(東京都)だ。同社はこれまで飲食店のアイドリングタイムを活用し、開業希望者に店舗を貸し出すサービスを手がけてきた。

 このシェアレストラン事業は、吉野家HDの「3ヶ年グループ中期経営計画(2022年度~2024年度)」において、「顧客の多様なニーズに応え、新たなブランドを育成する」ことを目的とした事業と位置づけられている。

 シェアレストラン事業の趣旨は、アトツギレストランのプレリリースによれば以下の通りだ。飲食店は新規開業件数が多い一方で廃業率が高い。そのため、従来のように先行投資をしてから集客する「ハイリスク・ローリターン」なモデルではなく、まずは店舗を間借りしてファンを作り、成功の見込みが立った段階で本格的に投資する「ローリスク・ハイリターン」な仕組みを構築するとしている。つまり、開業リスクを低減することで、開業者を増やしていこうという取り組みなのだ。

 アトツギレストランもこの「シェアレストラン」と同様の考えに基づいており、事業承継が必要な飲食店を引き継ぐことで、開業者がローリスクで新たに事業を始められるよう支援する。これは業界の活性化に貢献する意義のある取り組みだ。しかし、ここで気になるのは 吉野家HDにとってのメリットだ。この事業を展開する同社にはどのようなねらいがあるのだろうか。

 アトツギレストランのプレスリリースの末尾部分に、吉野家HDがこの事業を展開する目的が簡潔に記されている。それによれば、同社は「事業継承希望者と飲食店の双方の環境改善支援をすることで、新しい開業モデルの創出を図り、外食産業の更なる発展の一助となることを企図」している。

 この方針を見ると、吉野家HDは単なる業界支援にとどまらず、開業希望者を初期段階から支援し、将来的に成功しそうな外食ベンチャーを早期に発掘することで、M&A(合併・買収)の候補として育成していくという戦略を持っていることがわかる。「シーズ(種)」の段階、あるいは「苗」の段階から有望な企業を囲い込むことで、効率的に成長させるという考え方だ。

 一見すると、このようなM&Aの方法は遠回りで非効率に思えるかもしれない。しかし、外食産業は「水商売」とも言われるように、流行の予測が難しい業界である。なおかつ、 大ヒットした企業は株価が高騰しているため、投資効率が悪い。

 だからこそ、有望な外食ベンチャーが小規模なうちに支援し、将来の成長を見据えて関係を築いておくという戦略を吉野家HDは採ったわけだ。

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記事執筆者

中井 彰人 / 株式会社nakaja lab nakaja lab代表取締役/流通アナリスト

みずほ銀行産業調査部シニアアナリスト(12年間)を経て、2016年より流通アナリストとして独立。

2018年3月、株式会社nakaja labを設立、代表取締役に就任、コンサル、執筆、講演等で活動中。

2020年9月Yahoo!ニュース公式コメンテーター就任(2022年よりオーサー兼任)。

主な著書「小売ビジネス」(クロスメディア・パブリッシング社)「図解即戦力 小売業界」(技術評論社)。現在、DCSオンライン他、月刊連載6本、及び、マスコミへの知見提供を実施中。東洋経済オンラインアワード2023(ニューウエイヴ賞)受賞。起業支援、地方創生支援もライフワークとしている。

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