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VAIO買収のノジマ M&A巧者の成長戦略と10年で株価6倍の理由

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ノジマのM&A5つの特徴 

 筆者が考える同社のM&Aの特徴は以下の5つです。

  1. 比較的成熟した業界・企業に投資をする。
  2. M&A対象に対して、現在主力のデジタル家電専門店運営事業、キャリアショップ運営事業とのシナジーを絶対的な前提にはしていない。ファンド志向である。
  3. インターネット事業や金融事業などでのM&Aにおいては、消費者との接点を店舗だけではなくデジタルで多面的に確保する意向が見受けられる。しかしそれを「経済圏」としてくくる動きを今のところ強く推し出してはいない。
  4. 競合の家電量販企業はリフォーム、住設機器などへ事業拡大を進めているケースがあるが、同社はこれに対して積極的ではない。
  5. 負債調達余力が生まれれば積極的にこれを投資に向ける傾向である。

    VAIOの買収をどう位置付けるか

    上記の考察を踏まえると、VAIOの買収の狙いは以下の4点になるのではないでしょうか。

    1. 成熟性・安定性:現在のVAIOは法人向け主体で一定の安定顧客が確保できていると見られるうえ、AI搭載PCの新しい波を待つ立ち位置にある。VAIOの2024年5月期の売上高は421億円、当期純利益は9億円。単純比較は難しいものの、MCJの子会社であるマウスコンピューターは2024年3月期売上高534億円、経常利益29億円、当期純利益19億円を上げており、VAIOの今後を考えるうえでひとつの目線になろう。112億円の投資額は割高ではない印象である。
    2. 既存事業とのシナジーの可能性:デジタル家電専門店運営事業を通じた消費者向けへの拡大の可能性がある。
    3. 新たな顧客接点:キャリアショップ事業などとの営業・商材のクロスセルの可能性がある。
    4. 事業ポートフォリオに対する補完性:キャリアショップ事業では業界寡占化が進み、キャリア乗り換えに一定の需要があるため、ショップとしての収益機会にはプラス面があるものの、キャリアと消費者との直接契約が進みショップが中抜きされるリスクも中期的に高まりうる。金融事業も収益ボラティリティと競争リスクを内包しており、事業ポートフォリオのさらなる多角化とリスクコントロールが求められている。そうしたなかでVAIOは成熟し同社の他事業と共振するビジネスとは言えないため事業ポートフォリオのリスク管理と収益最大化の点で貢献が期待される。

     

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    記事執筆者

    都市銀行で証券運用・融資に従事したのち、米系資産運用会社の調査部で日本企業の投資調査を行う(担当業界は中小型株全般、ヘルスケア、保険、通信、インターネットなど)。

    米系証券会社のリスク管理部門(株式・クレジット等)を経て、独立系投資調査会社に所属し小売セクターを中心にアナリスト業務に携わっていた。シカゴ大学MBA、CFA日本証券アナリスト協会検定会員。マサチューセッツ州立大学MBA講師

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