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人口減の北海道を深く広く開拓!コープさっぽろ異次元の成長戦略とは

コープさっぽろ1280

垂直統合、多角化であらゆるニーズを取り込む

 北海道で事業展開する生活協同組合コープさっぽろ(大見英明理事長:以下、コープさっぽろ)をどの程度知っているだろうか。「全国でも有力な生協の1つ」という回答にとどまるようであれば知っているとはいえない。なぜなら、食品小売業界において今、研究するべき、独自路線で成長を遂げている組織の1つだからだ。

 はじめに、コープさっぽろの強さとユニーク性について述べたい。2023年度の総事業高(営業収益に相当)は3186億円で、両輪とする店舗事業と宅配事業の供給高(商品売上高に相当)はそれぞれ1983億円、1134億円。北海道内ではイオン北海道(24年2月期売上高3331億円)、アークス(23年2月期道内食品売上高2953億円)と並んで3強と呼ばれ、道内食品スーパー(SM)上位50社の総売上高に占めるシェアは約8割に上るともいわれる。組合員数は23年度で200万人を突破し、道内世帯数で見ると、その8割超がサービスを利用しているという。

 図表は、コープさっぽろのここ20年間の業績推移を示したものだ。

 07年の全道生協統合にかけては、道内の地域生協と事業統合することで規模を拡大。そしてそれ以降も、年度によっての浮き沈みはあるが、大手チェーンとの激しい競争があるにもかかわらず、着実に総合的なシェアを高めていることがわかる。

 とくにここ10年ほどでコープさっぽろが進めているのが、各事業の垂直統合を進めながら、シナジーが得られそうなビジネスを横に広げていくかたちでの「事業の多角化」だ。店舗、宅配を基盤に、物流や食品製造工場などを関連会社化して垂直統合するとともに、エネルギーや、配食、移動販売、共済などシナジーの高い領域から事業を拡大。現在では20の事業を展開し、35の関連会社が集まるコングロマリット組織へと発展している。こうした独自の戦略により消費者のあらゆる生活ニーズを取り込んで家庭内の財布シェアを高めるとともに、各事業や関連会社で相乗効果を発揮することで、人口減など日本の課題先進地域ともいわれる北海道において成長を実現しているのだ。

 さらに最近はメルカリ(東京都)のCIO(最高情報責任者)も歴任した長谷川秀樹氏を招へいしてのデジタル改革のほか、直近では健康データ活用を見据えた医療連携事業や、リテールメディア事業にも参入するなど、これまでの生協の常識を超えた動きを見せている。

経営再建の歴史から競争優位性の構築へ

 なぜ、コープさっぽろはこのように強く、独自性のある組織になったのか。

 その歴史を語るうえで外せないのが1998年、コープさっぽろが事実上の経営破綻に陥ったことだ。65年の創立以降、市価より高い「北海道価格」の是正など、地域の暮らしに貢献する役割を担ってきたが、バブル期以降の放漫経営により、経常赤字を連続的に計上。日本生活協同組合連合会(東京都)の救済支援のもとで経営再建に取り組み、業績を改善させていった過去がある。職員の大幅な人員整理など、大きな痛みを伴う立て直しのなか、コープさっぽろは強い組織へと生まれ変わるべくさまざまな事業、組織改革を断行。それが現在の強みの根幹となっている。

 まず、現在のコープさっぽろの競争優位性の源泉となっているのが独自の物流網だ。2000年に入るとアマゾンをはじめ大手ECが台頭するなか勝ち残るには、過疎地を含めて道内の生活インフラになるべく物流効率を最大化することが不可欠であると判断。12年には、基幹物流を担う関連会社として北海道ロジサービスを設立し、13年にはすべての店舗と宅配センター、組合員宅をカバーする完全自前の物流網を完成させた。

 これが、既存事業の物流効率化はもちろん、病院や施設、学校に食事を届ける配食事業といった新規事業の創出や、サッポロドラッグストアー(北海道)をはじめ他社の物流を受託するなどの物流の外販事業の展開にも広がっており、新たな成長源になっている。

日々、改善・標準化を実践する強い組織に変貌

 コープさっぽろは、データを活用したマーケティング活動にも業界に先がけて取り組んできた。1998年と早期から取引先にPOSデータを公開することで、取引先との関係を強めるとともに、品揃えや売場づくりの改善を進め、競争力を高めてきた。こうして蓄積してきたノウハウが、アプリを活用したワン・トゥ・ワンマーケティング施策や、ポイントを軸としたロイヤルティプログラムの実施など、現在の最新のマーケティング施策につながっている。

 もう1つ、重点を置いてきたのが組織・人材開発だ。「現場の一人ひとりが自ら考えて課題を解決できる主体的なパワーが組織には必要」として、大見英明氏が理事長に就任した07年より「仕事改革発表会」を実施し、業務改善とその水平展開を進めてきた。14年からは「トヨタ式カイゼン」に学んだ独自の教育手法も本格的に導入して活動を高度化させている。

 加えて労働集約型産業である小売業で重要とされる業務標準化も推進。良品計画(東京都)に学び、16年には独自の「業務基準書」を導入。全部署の業務内容をマニュアル化し、研修時間や引き継ぎ作業、業務のバラつきによるムダの削減などにつなげている。

 特筆するべきは、この業務改善活動と、業務基準書の作成・更新は、関連会社を含めた全職員が実施対象者である点だ。つまり日々、業務改善、標準化が組織全体で行われているといえ、こうした強い組織力がコープさっぽろの再建を実現し、近年の躍進を支えている。

リテールメディアや健康診断…新事業も始動

 ここからはコープさっぽろの直近の注目するべき動きを挙げたい。

 成長をけん引する宅配事業では、基幹物流センターに積極投資し、18年にはノルウェー発の自動倉庫型ピッキングシステム「オートストア(AutoStore)」を、24年6月には冷凍倉庫を稼働させ、取扱品目数を最大2万5000品目まで、冷凍食品は道内最大級の品揃えを実現できる体制を整備。標準的なSMとドラッグストアの品揃えを概ねカバーし、たとえ過疎地であっても生活必需品をまとめて購買できるチャネルとして道内での存在感を高めている。

 店舗事業では、20年から「大惣菜化プロジェクト」を開始し、関東の有力SMに学び、需要が高まる総菜の商品力を向上。また、札幌市内を中心に良品計画の「無印良品」との共同出店店舗を開発し、若年層の来店獲得に成功している。

 こうした基幹事業とともに、足元では期待の新規事業が走り出している。前述した配食事業のほか、24年度から医療連携事業をスタート。コープさっぽろが医師・看護師を職員として採用し、移動健診車で道内を回り生協職員の健康診断を行う。下期には対象者を組合員にも広げる計画だ。将来的には現在、多くの企業が市場獲得をねらう健康データの活用を見据えており、購買履歴と照合させて組合員への提案を行うなど、供給高や組合員のロイヤルティ向上につなげたいとしている。

 店舗やアプリといった小売業が持つ顧客接点を活用し、広告・メディア事業を展開するリテールメディア事業については23年8月、関連会社のコープメディアを新設。ゆくゆくは独自媒体への広告獲得をめざしており、25年度には総合的な北海道の魅力を発信する新たな独自メディアの構築も計画している。

 これらの新たな動きを加速させるのが、現在推進中のデジタル改革だ。コープさっぽろでは「Slack」「Googleスプレッドシート」「Zapier(ザピアー)」「AppSheet(アップシート)」(※「各部のIT人材育成!ITの民主化進めるコープさっぽろのDX戦略」を参照)の4つのデジタルツールの組織内活用を推進。24年1月には、そのための専任チームによるプロジェクトも始動している。

 独自の成長路線を突き進むコープさっぽろは今後、どのような未来を描いているのか。将来的には、道内食品小売シェアで5割超を占める存在となることをめざしているという。

 実は、フィンランドやスウェーデンなど北欧の多くの生協はすでに国内食品小売シェアで5割超を達成している。生協は消費者である組合員が出資者である点で株式会社とは異なる。大見理事長は「(小売企業の寡占化が進むと支配されるのではないかという)資本主義社会における抵抗感が払拭され、消費者が事業を支援する動きが働く。こうした生協の事業モデルだからこその成長可能性を証明していきたい」と語っている。

 いち早く人口減が進む北海道は日本の未来の姿だ。そうしたなかコープさっぽろは中長期を見据えて、既存事業の競争優位性構築、さらには生活者の課題解決を起点とした事業開発によって、消費者にとってなくてはならない存在になることで、持続的成長を実現しようとしている。その取り組みと姿勢、さらに生協の事業モデルは、全国の小売企業に大きなヒントを与えてくれるはずだ。

組織概要

本部所在地 北海道札幌市西区発寒11条5-10-1
創立 1965年7月
出資金 897億7825万円(24年3月)
職員数 正規2461人、専任2415人、パート・アルバイト1万598人(子会社含む数値:24年3月)

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