2024年3月期決算に株価はネガティブに反応
ニトリホールディングス(ニトリHD)が2024年5月14日に発表した2024年3月期決算は、残念ながら連続増収(経常)増益記録が途絶える内容になりました。
比較元となる前年度(2023年3月期)が約13ヶ月決算であったこと、この着地は株式市場である程度事前に想定されていたと思われること、新年度である2025年3月期の会社予想が増収増益に回帰する内容であることを考えると、株価は厳しい反応になったと言えるでしょう。
決算発表直前に21,395円であった株価は、発表翌日17,950円まで急落して終り、その後一時16,780円まで下げたあと5月末に17,370円になりました。5月月間では18%下落、年初来8%下落となっています。
実は好材料も多い2024年3月期決算
ニトリHDの2024年3月期決算のハイライトは減収減益で、具体的には売上高8957億円(前年度比▲5.5%減)、営業利益1277億円(同▲8.8%減)、経常利益1323億円(同▲8.1%減)、親会社株主に帰属する 当期純利益865億円(同▲9.0%減)、売上高営業利益率14.3%(同▲0.5%ポイント低下)、ROE10.1%(同▲2.2%ポイント低下)になりました。
一言すると芳しくない結果ではありますが、詳しく見ていくと中身はそれほど悪くないと考えられます。以下7点を指摘できます。
- 減収率▲5%に対して、決算期変更のあった2023年3月期の404日分から2024年3月期の366日へ日数が▲9.4%減少していること
- ニトリ事業の既存店売上高は発生売上高ベースで前年度比+2.9%と増加していること
- ニトリ事業の営業利益率は円安進行にもかかわらず5%(同+0.6%ポイント上昇)であり貿易費用の低減・原価低減・物流効率化などの施策が奏功していること
- 前年度末比で商製品在庫が減少していること
- 島忠、海外を含めた総店舗数が1000店を超えたこと
- 海外店舗数が年間50店舗純増し期末には179店舗(全店舗数の約18%)まで増えていること
- 海外店舗の売場面積が前年度比+37%増加し、全社の5%を占めるまで上昇していること
個人的な話になりますが、ニトリが近くの商業ビルのワンフロアの店舗を展開するようになり、車ででかけなくても気軽に商品を試すことができるようになったことも大きなプラス要素です。
次に2025年3月期の計画を確認していきます。ここでもプラス要素が少なくないと思います。
- 会社予想は売上高9600億円(前年度比+7.2%増)、営業利益1296億円(同+1.5%増)、経常利益1340億円(同+1.2%増)、親会社株主に帰属する 当期純利益920億円(同+6.3%増)であり、売上高経常利益率が若干低下するものの増収増益計画であること
- 中国大陸を中心に積極的な店舗拡大を計画していること
- 国内物流拠点の強化が続くこと
- 1ドル150円想定で、ニトリ事業の粗利率の改善を想定していること
それではなぜ、株式市場はニトリHDに対して厳しい見方をしているのでしょうか?
株式市場の眼差しが厳しい7つのポイント
株式市場は上記の諸点を当然見定めているにもかかわらず、厳しい反応をしています。
この背景は以下の7点にまとめられると筆者は考えています。
- 増収増益記録が途切れてしまうと、株価形成において「成長プレミアム」が縮小しその復元は容易ではないこと
- 島忠事業は売上高が弱めで売上高営業利益率も2024年3月期は1.8%にとどまっており、ニトリ事業とのシナジー効果が見出しにくいこと
- ニトリ事業において買い回り頻度を高める商品施策およびマーケティング施策が奏功しているのかを判断する材料(の開示)が十分ではないこと
- ニトリ事業において対法人&リフォーム向けの成長が潜在市場と比較して不十分であるとみえること
- 強化が進む海外事業の売上高構成比は全社売上高の4%程度と推察され、その収益寄与について十分な情報がないこと
- 海外店舗の50%強が中国大陸に集中していていること
- 一時は20%を超えたこともあったROEが10%程度へ低下していること
ファーストリテイリング、良品計画の勝ち筋をどう追うか?
このように連続成長神話が途絶えたニトリHDに対して株式市場の要求するテーマは多岐に渡りますが、今後最も重要な点は、「海外事業の本格的な収益寄与によってニトリHDが次の成長ステージに入るかどうか」だと思います。
ファーストリテイリングや良品計画には、経済成長の著しい時点でしっかり中国大陸で地盤を固め、国内と中国事業の双極体制を構築し、さらに欧米および他のアジアで順次事業基盤作りを進めていったという経緯があります。
今後同社も同様の成長過程を経ると思われます。海外事業の寄与度が明白になれば、円安を一概にマイナス材料と捉える必要もなくなるはずです。海外事業の投資効率が国内に遜色ないあるいは優れているとなれば、ROEの改善期待にもつながっていくはずです。
海外の売場面積が全社の10%に近づいてきましたので、売上高も10%を超えてくる日が早晩訪れると思います。その際には海外事業の収益動向についてより積極的なアピールが始まり、株価もこのポテンシャルを再評価し始めることでしょう。株価はだいぶ調整しましたので、これからはポジティブな材料を待つ展開になると筆者は考えています。
なお、筆者はカチタスおよびエディオンとの協業の深化とそのポテンシャルについて興味深く見守っています。
プロフィール
椎名則夫(しいな・のりお)
都市銀行で証券運用・融資に従事したのち、
米系証券会社のリスク管理部門(株式・クレジット等)を経て、