苦境にあえぐ世界3大羊毛産地「尾州」を復活させる逆転戦略とは

河合 拓 (株式会社FRI & Company ltd..代表)
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マーケットに対する知識も意欲もない尾州の人々

 私は、尾州の素材メーカーの人や縫製工場の人と話をするのだが、驚かされることがある。彼らはマーケットに対してなんの知識もないのだ。

 例えば「今どこの取引先とお仕事をしているのですか」と聞くと、私がこの業界に入った1991年にはすでに終わっていたようなブランドと、未だにつきあっているというのだ。当然、今、元気のあるTOKYO BASEやマッシュスタイルホールディングスなど知るよしもない。

 ここは、竜宮城のように時間が止まっている。私が、世の中の最新のテーマ、中国のデジタル企業、企業の情報戦争は雑誌からSNSへ移ってゆく話しやSDGsについて語ると、対岸の火事のごとく「自分には関係ない」という顔をしながら聞き流している。情報を教えてほしいという気持ちも感じられない。つまり、そういう難しいことは関係なく、自分たちを取り巻く経営環境がいつになったら回復するのかと、極めて他力本願な態度なのだ。正直、これではお話しにならない。結局、彼らはチームで取り組み合うことすらせず、ただ同じことだけを続けているのだ。

ファクトリーブランドの欠点を解決する、「干場義雅マジック」

カジナイロン社の素材から生まれたアパレルラインのK-3B ZERO
カジナイロン社の素材から生まれたアパレルラインのK-3B ZERO

 このように弱体化した尾州地区復活のために私ができる秘策は、Sheinの逆モデルを尾州につくるよう指導することだと強く感じている。工場からクーリエサービスを使い世界に「BISHUブランド」を世にディストリビューションしてゆくわけだ。

 新型コロナウイルスによって人は巣ごもりし外にでなくなった。しかし、最もアパレル業界にインパクトを与えたのは、国をまたいだトレードがやりにくくなってきた、ということなのである。

 結果、例えばメンズブランドの多くは、メンズファッションのカリスマ、干場義雅氏と組み、次々とファクトリーブランドをつくりだした。私も、いくつかを持っているが、価格はイタリアのファクトリーブランドと同じレベル。つまり、かなり高価格である。BISHUのナイロンやポリエステル素材を巧みに使い、干場義雅ディレクションの元、Made in Japan ブランドでイタリーの香りがするカジュアルウエアを10万円前後で販売している。 

 私は、日本の工場に最も足りないのは、①ブランド、②マーチャンダイジングの2点であり、この2点を「世間知らず」の日本の工場が身につけるのは、至難の業であると感じていた。つまり、この構想は机上の空論だと思っていた。

 しかし、日本が誇るナイロン素材メーカー「カジナイロン」の例を見てほしい。産業資材用途のナイロンを衣料品用途のポリエステルのように軽く、柔らかくして販売している。

 干場義雅氏がディレクションすることで、このように格好良いブランドへと進化した。MDの問題も解決されており、Tシャツでも注文から2ヶ月後、3ヶ月後納品の受注生産、余剰在庫ゼロなのだ。

 最近私のワードローブは、ほとんどがこのMINIMAL WARDROBEで買ったものになっている。ここまでくれば、あとはビッグデータと越境ECでの販売フェーズに入るのみだ。干場氏のディレクションやSNSでの展開は絶妙で、今では阪急百貨店、伊勢丹なども同氏をインフルエンサーと敬い、PBを販売しそのほとんどが完売となっているようだ。

  あとは、煮えきれない商社がこうした事実を直視し、工場が投資できないビッグデータ、AIによる解析、自動物流倉庫などをセットすれば良い。すくなくともメンズでは、Made in JapanSheinモデルがつくれるのである。

  私は、ある商社に「BISHU x Shein」の企画を持ち込んだのだが、その商社は「あくまでもOEMをやる」ということで拒絶し、この企画は泡と消えた。もはや商社に力はなく、繊維部門に投資余力も努力も説得力も構想力もない。ただただ、若手が離職していく様を見送るしかないのである。

 私は、秘伝の「Digital SPA」を封印するほど既存勢力に叩きのめされ、繊維・アパレル業界の決定打といえるSheinモデルさえ、新しいことをやりたがらない人達に潰された。最後は、アパレル業界のビジネススクールの講師も突然クビになり、産業界を追い出そうとされている。国民の血税でのうのうと仕事をしているのかいないのかわからないようなコンサルが山のように補助金狙いで群がり、それぞれの工場や商社が世界の常識やアパレル産業の「今」も知らず、勝手なことをやり産業界を潰している。

 ここに書いたことはすべて事実だ。あなたなら、この事実を知ってどうするか?

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プロフィール

河合 拓(経営コンサルタント)

ビジネスモデル改革、ブランド再生、DXなどから企業買収、政府への産業政策提言などアジアと日本で幅広く活躍。Arthur D Little, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナーなど、世界企業のマネジメントを歴任。2020年に独立。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)
デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言
筆者へのコンタクト
https://takukawai.com/contact/index.html

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記事執筆者

河合 拓 / 株式会社FRI & Company ltd.. 代表

株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)。The longreachgroup(投資ファンド)のマネジメントアドバイザを経て、最近はスタートアップ企業のIPO支援、DX戦略などアパレル産業以外に業務は拡大。会社のヴィジョンは小さな総合病院

著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「生き残るアパレル死ぬアパレル」「知らなきゃいけないアパレルの話」。メディア出演:「クローズアップ現代」「ABEMA TV」「海外向け衛星放送Bizbuzz Japan」「テレビ広島」「NHKニュース」。経済産業省有識者会議に出席し産業政策を提言。デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言

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