飛ぶ鳥落とす勢いのアダストリア、絶好調にみえる「秘訣」と「成長余地」、潜む「死角」とは
アダストリアをどう評価するか
アダストリアを正しく評価することは実は簡単ではない。業績、成長性ともに文句のつけようがなく「イケイケで成長中」に見えるが、改善すべき点もあるからだ。
まず、海外比率は全体の7.1%程度しかなく、決して同社の経営の根幹を握っているとはいえない。残りはゼットンで、飲食事業は4%程度。つまり90%は従来型の衣料品と雑貨を販売するビジネスなのである。あの見事な4象限のポートフォリオも、製品・市場戦略でまとめれば、国内アパレル事業が異常に大きく、その他はまだまだ小さいため、ポートフォリオは国内のアパレル・雑貨事業で組み込むしかないわけだ。
そうなると、Forever21や、後述するサステナ・ファッションを標ぼうする「O0U」などが「次世代の屋台骨になるのか」というと現時点ではクエスチョンマークである。Forever21などは、大胆なリブランドを行ったことで完全に既存顧客を逃した状態からのスタートとなるため、新規顧客を集めていくしかない。町にできたラーメン屋に最初は人が並ぶのだが、味が悪ければリピートされないわけで、この先リピート率いかんで真価が問われることになるだろう。なお、名前さえ広がっていればブランド化されるわけではないことは、拙著『ブランドで競争する技術』内で副題「名前は広がっているのになぜ売れないか」でたっぷり書いたので、読者は一読願いたい。
サステナ・ファッションについては、再三指摘しているように、コマーシャルベースには乗らないだろうと私は考えている。欧州と異なり、米国、中国はビジネス競争においてはSDGsなど本音のところでは全く無視している。消費者も、欧州の消費者だけが特別で、それ以外の地域では「環境のために再生ポリエステルを使う」「プロテインを使う」などという取り組みは、23年になったいま私の知る限り全滅しているように思える。
人が、そうした服を買うのは「サステナ・ファッションだから」ではなく、「価格」と「デザイン」のコスパバランスがよいからだ。とどのつまり、サステナブルがどうだとか、環境破壊がどうだとかは全く関係ないのだ。「同じ値段ならサステナブルな方を選ぶ」と言っているにすぎず、サステナ・ファッションであることに付加価値は何一つないのである。
だから再三提言しているように、この問題はアパレルを製造業のゴミの終着点にするのではなく、リサイクル素材を使うなどして上昇したコストを補助金で相殺すべきなのだ。
アダストリアの戦略総括
最後に、アダストリアの「サステナビリティ」戦略について分析したい。まず、モノづくりやサプライチェーン段階におけるCo2排出量に対してKPIを設けて管理する目標に対して、「一定の成果を出した」とだけ木村治社長は説明した。私は、日本のSDGs対応の矛盾点を散々指摘してきたが、具体的な進捗状況や、その方法(私の知っているアパレルは、HIGG INDEXにCentric8を対応させ、その細かい対応に四苦八苦している)は具体的になんなのか。この最も大事な部分についての説明は物足りなかったように思う。
アダストリアは、2500億円規模の売上を誇る日本で第3位のアパレル企業へと飛躍を遂げ、俄然注目を浴びるようになった。ゼットンの買収、海外進出、Forever21のライセンス獲得(マスターライセンスは伊藤忠商事)や、アパレルの中ではもっとも早くSDGsに対応するなど、話題にことかかない。
だが、ゼットンも海外売上比率は一桁代で、90%は国内ビジネスであることを、きちんと数字をみて語っている人は少ない。もちろん、小さいからだめだというわけでない。投資をして海外シェアを獲得していけばよい。そこで気になるのが固定費の重さと利益率の低さであり、本当に大きな投資を繰り返しながら海外比率が日本を上回り、上述した利益率を獲得するエクセレントカンパニーになれるのはいつになるだろうか。
今のところ大きな死角はないものの、リスクもはらんでいると思う。後半厳しい論評もおこなったが、それもアダストリアにエクセレントカンパニーになって欲しいと思うがゆえだ。以上が私の分析である。
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プロフィール
河合 拓(経営コンサルタント)
ビジネスモデル改革、ブランド再生、DXなどから企業買収、
デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言
筆者へのコンタクト
https://takukawai.com/contact/
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