SDGsは諸刃の剣 日本のアパレルに突きつけられた戦略的判断とは
さて、私は前週の論考、「サステナファッションは非現実的 アパレル産業がすべき本当のSDGsについて考える」で、日本人が一般的に信じている、あるいは、インテリはすでに知っているが声に出せない事情から黙っている幾つもの本音をあぶり出し、産業界が隠蔽している真実を語った。SDGsは、企業にとってコストであり、企業収益をむしばむ毒薬だからだ。しかし、治療薬がないわけではない。今回は、私が10年間戦ってきた、抜本的な解決策について語りたいと思う。
SDGsはコスト
SDGs巡る5つの大きな大問題とは
改めて前回の話を中心に、日本のアパレル産業のSDGsに関して、私が考える5つの問題点について以下にまとめた。
①SDGs対応は、多くの企業にとってコストであり企業収益をむしばむ毒薬であること
SDGsの対応、およびESG経営は、企業活動にとって「コスト」でしかない。だから、ドナルド・トランプ前大統領は、パリ協定で、中国とのメトリクス(計測方法)に「不公平」と発言し、同協定から脱退した。これは、米国のほうがSDGs対応の負担が相対的に大きく、産業コストを中国以上に背負うという意味である。SDGsがビジネスチャンスなら、なぜ米国が反対するのか。中国新疆綿には反対して輸入禁止をしたのは、本当に人権的観点からなのか。パリ協定からの脱退と比較して、よく考えていただきたい。
②広がるSDGs利権
SDGsの本質は、政府主導によって某コンサル会社、マーケティング会社によってゆがめられ、あたかもサステナ・ファッション(サステナブル:経済活動と環境保全の二つは両立するという考え方)が、次のトレンドだとばかりに、欧州の文化的背景(ア・プリオリに環境保全が第一優先。下記参照)と、日本とのを違いを考慮せず(図1)、サステナファッションを次々と立上げ全滅しているといったら失礼か。しかし、日本でサステナファッションがヒットしたなどという話は聞いたことがない。彼らの殺し文句は、LVMHが、とかGUCCIが、とか、全く我々庶民とは関係ない話しを持ち出すことだ。そうしたハイブランドがスプリンクラー(上から下に影響を与える)効果があると信じている。しかし、日本人がもっと豊かにならなければ、絶対にそんなことは起きない。
③激安 Sheinの店に4000人のZ世代が列をなしたことをみれば、環境コストを消費者は吸収しないこと
日本はOECD諸国の中でもっとも貧しい国になり、二次流通品を上手に利用してファッションを楽しんでいるような現実の姿を曲解し、「ああ、若い世代は環境意識がたかまっているんだ」と間違った見方をし、ファッション業界を全滅に導いている。
④マーケティングデータを信じず、唯我独尊で破滅の道へ
日本が世界に誇る某メーカーは、マーケティングをまともに学んだこともないのに金は腐るほど持っていた。しかし、その金もメチャクチャな投資でどんどん溶けているが、こうなることは2年前から私が論理的かつ、情熱をこめて指摘したのだが、御用学者ならぬ、御用コンサルの援護射撃で、真正面から経営改革を迫ったことに対して「パワハラだ」「極論だ」と言って私をクビにした。おどろくべきは、その御用コンサルは、その事実を理解さえしないという酷い状況にあり、プロフェッショナリズム(例え、クライアントに嫌われてもクライアントのためになることを、ましてや、危機的状況に陥っている場合においては、多少の荒療治をもってしても改革を進めてゆく)をわすれていることだ。
覚えているだろうか、私は昨年春「秋には大きなM&Aが立て続けにおきる」とこの「ダイヤモンド・チェーンストアオンライン」に書いたことを。日本のアパレルの国際競争力のなさ、そして、円安や中国の金余り現象(今は日本の不動産に向かっている)などを総合すれば、そうなることは明らかだった。そんなことは、事実をしらなくともForces at workという手法を使えば容易に予想がつくのだが、考える力を失った者達は、この事件をもって、さあ大変だとあたふたしている。
⑤世界の余った金は日本のアパレルには向かわないこと
その結果、もっともおそれていたことが起こった。それは、繊維・アパレル産業へリスクマネーが回ってこなくなったということだ。コンサル会社は売上至上主義に陥り、過剰診療を繰り返して、いわば便秘の患者に「大変です大手術が必要です」と誤診断でオーバードーズ、必要の無い手術を繰り返し、その全てが的外れとなっている。結果、今後は相当な勝ち筋が見えなければ、もはやアパレル業界にリスクマネーが回ってこないだろうことは明らかだ。これをもって、「安心だ、これでハゲタカににらまれることはない」といっても、資金調達はデットかエクイティの二択しか基本的にはないわけで、借入がマックスまで来た場合、否が応でもファンドに頼むしかない状況になる。ならば、元気なうちに、投資戦略を考えてファンドを利用してやるぐらいの戦略を立てなければ、縮小する日本市場で生き残ることはできないだろう。
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