岸田政権「新しい資本主義」下で、イオンの企業評価が高まる理由とは
「新しい資本主義」のもとでイオンは再評価される!?
実は筆者も長年上記のようにイオンを見てきました。
しかし、ステークホルダー重視の昨今の「新しい資本主義」論を眺めて少し考えが変わりつつあります。
例えば、私の家族は数年来のイオンの個人株主で、短期的な株価動向には関心が低く、配当と株主優待のキャッシュバックを楽しみに、週に何度かイオン系列の店舗でショッピングをしています。私も同行しますが、品揃え・品質・価格には概ね満足していますし(品質は数年前に比べて良くなったと感じます)、サステナブルな取り組みで仕上がった商品を納得して購入しています。
つまり生活者目線に立つとイオンにはお世話になっている、もっと頑張って欲しいというのが率直な印象です。
生協に期待する組合員と同質の期待をイオンにも抱いていると言えます。
資本効率はほどほどでも、社会に多面的に貢献する株式会社が上場していてもいいのではないか。資本市場は、資本効率とガバナンスで企業をがんじがらめにするのではなく、上場する株式会社の多様性を積極的に認めてもいいのではないか–– そう考えるようになりました。
イオンは個人株主が73.8万人に上り、所有割合は全体の31%を超えており、一般的な上場企業と比べて異質の株主構成です。この点も、生協に近い存在だと思います。
イオンが「新しい株式会社」の雛形になるために必要な4要件
「新しい資本主義」論が台頭し、「新しい株式会社」のあり方を考える機会が生まれています。
そうした中でイオンは、資本効率は不十分ながらステークホルダーに一定の貢献をし、社会の公器としての役割を果たしています。そうした上場株式会社を積極的に評価するきっかけが生まれるような気がしてなりません。
では、イオンが「新しい株式会社」の雛形になるために必要な要件は何でしょうか。筆者は以下の4つだと考えています。
- 上場株式企業として最低限コミットすべき売上高利益率、資産効率、資本効率を明示する
- 上記のコミットが達成できない場合、資産・投資の見直しを着実に行う
- 上記のコミットを超過達成する場合、余剰利益を誰にどう配分するのかステークホルダーごとに基準を示して明示化する
- 上記の余剰の配分の成果を将来の財務的な収益に結びつけ、その橋渡しとなるKPIを明示する
どんなに素晴らしい活動をしている企業であっても収益が悪化すればそうした活動の継続が難しくなるだけではなく事業の存続も難しくなります。イオンの場合、親子上場の問題やキャッシュフローのあり方、低採算部門の温存といった課題を抱えていますので、資本効率による規律強化は不可欠です。したがって、まずはROE8%を現在のイオンに求めることは望みませんが、例えば3年平均で6%にはコミットする必要はあるはずです(現在の中期計画の着地である2025年にROE7%以上と設定されています)。
その上で、余剰の利益があれば投資と配当と他のステークホルダーへの配分を行い、配分から期待される成果をKPIとして記録していくというのであれば、イオンに生協的期待を持つ株主は納得・安心すると考えます。
「新しい資本主義」論をきっかけに、上場株式会社の多様性を認める、生かす枠組みの議論が進むと良いのではないでしょうか。
プロフィール
椎名則夫(しいな・のりお)
都市銀行で証券運用・融資に従事したのち、米系資産運用会社の調査部で日本企業の投資調査を行う(担当業界は中小型株全般、ヘルスケア、保険、通信、インターネットなど)。
米系証券会社のリスク管理部門(株式・クレジット等)を経て、独立系投資調査会社に所属し小売セクターを中心にアナリスト業務に携わっていた。シカゴ大学MBA、CFA日本証券アナリスト協会検定会員。マサチューセッツ州立大学MBA講師
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