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年初来+65%上昇!評価高まるZOZO株 最高値更新の日は近いのか?

ZOZO株価は年初来+65%上昇

 ZOZOの株価が上昇しています。

 2021年8月の株価は4195円で終わりましたが、これは前月末比+13%、年初来+65%といずれも高い上昇率になりました。さらに、2018年7月につけた最高値4875円まであと16%に迫っています。

決算期 売上高 当期純利益
18年3月期 98,432 20,156
19年3月期 118,405 15,985
2020年3月期 125,517 18,804
2021年3月期 147,402 30,932

 この2018年7月以降を振り返ると、2019年3月期決算が増収ながら減益になり、あくる2020年3月期にはZホールディングスの傘下に入り、そして2021年3月期はコロナ禍というアパレル逆風の中で事業展開を余儀なくされる激動の展開になりました。

 このような大きな環境変化を経て、ZOZOが再び評価を取り戻している背景を整理します。

好業績継続の第1四半期
受託販売依存からの脱却の兆候も

 7月29日に発表された2021年4−6月期(第1Q)の決算は好内容でした。

 商品取扱高は1168億円(前年同期比+23%増)、売上高は388億円(同+15%増)、営業利益は125億円(同+20%増)などとなり、6四半期連続の増収増益です。

 しかし注目したいのは中身の変化です。

 同社の基幹事業であるZOZOTOWN事業の受託販売の取扱高および売上高がいずれも前年同期比+6%増で、その伸び率が減速しています。そのかわりに、PayPayモール事業と広告などが売上高を牽引しています(下図はサービス別の商品取扱高とその前期比<売上高ではない点に注意>)。

ZOZO2022年3月期1Q  (単位:億円、%)
商品取扱高 対前年同期比
ZOZOTOWN事業 906.4 6.6
受託販売 873.4 6.0
買取・製造販売 7.2 39.7
USED販売 25.8 23.3
PayPayモール商品取扱高 98 124.3
BtoB事業 62.4 4.8
その他 101.1

 この四半期の売上高は前年同期比実額で+51億円増加しましたが、最大の牽引役はPayPayモール事業の+16億円、ついで受託販売の+14億円、広告の+6億円に分解されます。

 複数の事業がバランス良く全社の業績を牽引していることが伺え、ポジティブな印象です。

受託販売の成長減速をどう見るか?

 ただし、受託事業そのものの成長減速は論点になるでしょう。この減速が一時的なのか、それとも恒常的なものなのか。

 会社の説明にしたがえば、購入者数は順調に増えているものの、会員歴の浅い購入者の比率が高く、そのため客単価が低めであることが要因のようです。会員歴が長くなるほど客単価は上昇する経験を前提にすれば、顧客の定着が成功する限り、時間の経過とともに客単価の上昇に伴って取扱高も堅調に増加すると解釈できるでしょう。つまり、一過性であると解釈されます。

 さらに別の視点から開示データを眺めると、第1四半期の平均出荷単価は前年同月比でひさびさに下げ止まり、出荷件数は増加傾向が続いていることがわかりますので、この傾向が続くとすれば今後、商品取扱高は巡航速度で成長を続けると予想できるのではないでしょうか。

 しかし、PayPayモールとの「喰いあい」が生じている可能性も考えられます。ZOZO全体としてユーザー数と取扱高がどうなるのかに注目する方が適切になってきたと言えるでしょう。

Zホールディングス入りは正解だった?

 PayPayモールは究極的にはモール運営者の方針で収益に影響を受けるリスクがあり、さらに従来の受託事業とのカニバリリスクを内包していますので、注意してみていく必要があります。

 しかしそれを加味しても、筆者はZホールディングスの傘下入りは良い判断であったと思います。

 ZOZOはアパレルのB2Cマーケットプレイスを基軸に拡大してきましたが、成長にあわせて、メディアの確立、商品ジャンルの拡張、広告、中古品流通、プライベートブランド(PB)、金融などの領域に参入してきました。しかしマーケットプレイス事業者の宿命として、テナントの離脱(=自社ないし他のマーケットプレイスへの移動)を最大のリスクとしてコントロールしなければなりません。実際、PBと中古品流通の事業を展開する際、アパレルテナント(受託元)への気配りを避けることはできなかったと思います。

 B2Cマーケットプレイスを基軸に自由に事業展開するためには、圧倒的なユーザー数と高いリテンション(継続)率を確保する必要があります。アマゾンであればプライム会員化、楽天であれば楽天カードをベースにしたポイントエコシステムでの回遊がこの仕掛けに当たります。

 ZOZOの場合、従来からユーザーの閲覧・購買履歴、ファッションコーディネートサイトのWEAR、全身採寸用ボディスーツのZOZOSUITなどがその役割を期待され、十分な貢献をしてきました。ZOZOTOWNの年間購買者数は現在973万人で、20代と30代の総人口3200万人の30%に当たります。ここから先は、新規ユーザーの獲得は幅広いユーザー層を抱えるZホールディングス・LINEユーザーに求め、ZOZO自体は既存ユーザーの顧客単価・LTV(顧客生涯価値)底上げを狙う、そう考えているのではないでしょうか。

 さらに、中古アパレルの流通についてはZホールディングス側のインフラも是々非々で活用することも可能です。アパレルテナントの摩擦を最小限にしつつ、SDGs的に好ましいアパレル・エコシステム構築にも貢献できるようになります。

ZOZOエコシステム」構築を担うZOZOCOSME

 このようにZOZOは既存ユーザーへの提供価値を高め、顧客単価をひきあげ、そしてリテンションを強化する段階にあると筆者には見えます。カスタマイズ提案とクロスセルによる「ZOZOエコシステム」の構築とも呼べるでしょう。
 
 この文脈では、ハイエンドを狙ったZOZOVILLAやZOZOMATを生かした靴が注目されますが、筆者の周りで話題になっているのはZOZOCOSMEです。この取り組みはアパレルとの親和性が高く、ZOZOGLASSに代表されるユニークなUX(ユーザー体験)も期待でき、テナントに対する高い収益貢献が予想されるうえ、ユーザーのリテンションを高めることも大いに期待できそうです。

 仮に、日本のアパレル市場を9.1兆円、化粧品市場を2.6兆円とすると、ZOZOCOSMEのクロスセルが成功すれば現在よりも顧客単価は30%上昇しても不思議はありません。

 ユーザーのリテンションが強まれば、広告事業の価値も高まるはずです。

 また、アマゾン、Shopify(ショッピファイ)、Facebook、BASEなどが続々強化を進める、「個人や小規模事業者にマーケットプレイスへのアクセスを提供する事業」(ZOZOの場合はYOUR BRNAD PROJECT)においても、他社にはない顧客基盤を提供できることでしょう。

 

 ZOZO生産プラットフォームの商業化展開も含めて、成長のタネが揃ってきました。

 ZOZOは利益面では過去最高益を更新していますので、次は株価の番です。ここで触れたZOZO COSMEが新規顧客獲得と顧客単価上昇の二つに成果を出せば、その日は遠くないと考えます。

 

プロフィール
椎名則夫(しいな・のりお)
都市銀行で証券運用・融資に従事したのち、米系資産運用会社の調査部で日本企業の投資調査を行う(担当業界は中小型株全般、ヘルスケア、保険、通信、インターネットなど)。
米系証券会社のリスク管理部門(株式・クレジット等)を経て、独立系投資調査会社に所属し小売セクターを中心にアナリスト業務に携わっていた。シカゴ大学MBA、CFA日本証券アナリスト協会検定会員。マサチューセッツ州立大学MBA講師