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“おいしさ”を構成する要素とは何か? “わかりやすい味”を追求する外食の功罪

 日本リテイリングセンターの故渥美俊一先生はよく、「料理には、アロマ(食前の香り)、テースト(味)、フレーバー(口に入れた時に鼻から抜ける香り)がある」とおっしゃっていた。

“おいしさ”の正体とは何か

 その渥美先生から薫陶を受けたサイゼリヤ(東京都)の正垣泰彦会長は、“おいしさ”を、①ルックス(見た目)、②アロマ(口に入れる前の香り)、③テースト(味)、④フレーバー(口に入れた時の香り)、⑤プライス(価格)の5つの要素に分類し、それらの組み合わせやバランスが大事だと力説している。つまり“おいしさ”とは、様々な要素が入り混じってつくられる、ということである。

 一方、おいしさの構成要素を「後味」と「先味」に分類している小売企業もある。「先味」は「後味」の対語として出てきた造語だ。「後味」が悪い、と言うように「後味」とは飲食のあと口の中に残る味のこと。どちらかと言えば、フレーバーに近いもので、“味わい”と換言していい。
 ただ、その企業の場合は、「後味」は、どこかにおいておき、口に入れた瞬間に感じる「甘味」「酸味」「塩味」「苦味」「辛味」などの極端な「先味」の実現に力を注いでいる。理由は簡単。「先味」は単純でわかりやすいので消費者受けし、ひいては商品が売れるからだ。

 また、展示会での試食や各企業の新商品候補試食会は、ワインのテースティングよろしく少量摂食であり、一口目こそが合否のカギを握っていることが多いのではないか。

“わかりやすい味”の功罪

 しかし食育的見地に立てば、「先味」重視、「後味」無視的なアプローチは、やはりどこか変だと言わざるをえない。たとえば、秋田県産の比内地鶏であれば、塩焼きにして鶏の持つ味わいを堪能したいもの。だが、「先味」重視は、そんな地鶏にベッタリとタレをつけて照り焼きにしてしまうようなものだ。そんな食べ方も悪くはないのかもしれないけれども、「後味」の選択肢だって欲しい。

 自由競争社会であるので、口を出すことは憚られる。だが、「先味」重視の商品開発は、和食の微妙な味わいを識別できる日本人の能力を自ら退化させてしまっているような気がしてならない、とだけは言っておきたい。