「SMだけでは永続的な成長は難しい」食品製造小売業に舵切り!=阪食 千野 和利 会長
SMから食品事業への移行
──それらの要因を踏まえ、今後どのような戦略をとりますか。
千野 大きく分け、5つの分野での施策を計画しています。
つめはさらなる「高質食品専門館」(ビジネスモデル)の進化です。単身世帯が増え、とくに高齢者の比率は高まる傾向です。また、働く女性も増加しています。人々のライフスタイルが変化していますから、品揃え面では「即食」商品の総菜比率を高めます。今の「高質食品専門館」においては、総菜、インストアベーカリーに、各生鮮部門の総菜を加えた「食事MD」の売上高構成比は約20%ですが、20年に向けて、30%にまで引き上げます。最新店の箕面船場店では、これまでの水準より4ポイント高い、24%に目標設定しています。
売場づくりでは、食材を買う場というSMの機能に新たな要素を加えます。その次は、食する場として、レストランの併設を計画しています。さらに、食材や料理について学ぶ場としての役割も果たすべきではないかとも考えており、商品構成、売場づくり、休憩施設なども順次見直します。
──次世代型のSMを追求するのですね。
千野 そうです。ただ競争環境や人口動態問題を考えると、SMの展開だけでは永続的な成長を続けるのは難しいと思っています。そこでSMの枠を超えた食品事業にシフトするのが2つめの施策です。製造、卸売、小売を手がける、垂直統合の仕組みを構築します。
この方向性のもと、当社の製造子会社の動きも変わります。H2Oグループへの商品供給だけでなく、他社SM企業や専門店などへの卸売も強化する方針です。順調に推移している阪急ベーカリー(大阪府/河原逸雄社長)の100円パンも、16年度では1日の製造予定40万個という規模になりつつあります。ほかに阪急デリカ(大阪府/須永隆社長)は総菜のほか、新たなカテゴリーとして和菓子にもチャレンジし、メーカーとして事業拡大を図ろうとしています。
──小売では、イズミヤがH2Oグループ入りしたことで販売力も拡大しました。
千野 さらに近年、連携を強めている、同じ志を持ったSM企業のネットワークも活用します。具体的には、当社、エブリイ(広島県/岡﨑雅廣社長)さん、サンシャインチェーン本部(高知県/川崎博道社長)さん、ハローデイ(福岡県/加治敬通社長)さんの4社です。ここにシティ・スーパーが入ると、販売力はさらに大きくなります。
生鮮食品は産地と連携し独自商品を開拓する一方、大手メーカーの協力を得てプライベードブランドも開発します。価格ではなく、価値訴求型の商品を充実させ、食品事業を拡充していく計画です。
人材の確保問題に2つの対策
──3つめの施策は何ですか。
千野 長期目標の達成に必要なインフラの整備です。15年4月には、新物流センターを稼働させました。
当初は、阪食グループ内での事業拡大を想定していましたが、イズミヤがH2Oグループ入りしたことで状況が変わりました。これを考慮し物流、情報システムを整備、また事業ドメインのすみ分けも進めます。阪食グループでは2000億円、これにイズミヤをあわせた売上高は将来的に5000億円を目標に拡大していきます。
4つめは“人”の問題。近年、慢性的な人手不足が全国的に顕在化しており、5年、10年後にはさらに厳しさが増すと予想しています。これに対し2つアプローチを行います。
まず今働いている従業員と当社との関係再構築。従業員と強いパートナーシップを結ぶことは大きな課題です。米国では、従業員が支払う保険料を会社が肩代わりするケースも珍しくないと聞きます。日本ではそこまでの取り組みは求められないとは思いますが、評価制度、処遇面での対応を、今より充実させなければ人材は他社に流れてしまう可能性があります。現在、当社では社員、パートタイマーを表彰する「阪食フェスティバル」というイベントを毎年、開催しているのですが、さらに取り組みを強化する考えです。
もうひとつは、新入社員確保の取り組みです。当社に目を向けてもらうためにはまずSMの仕事を理解してもらう必要がある。現在、流通科学大学(兵庫県神戸市)で講座を持ち、S Mの歴史や仕事の内容、流通の仕組みなどをテーマに、私を含む幹部が順番で講義をしています。一方で、大学生を対象にしたインターンシップ制度も整備し、売場づくりや新店の立ち上げなどの現場を実際に見てもらう活動にも力を入れています。今年8月には関西の有力大学から多くの参加があり、今後も継続する方針です。
そして5つめはリアル店舗を利用した新しいビジネスの構築です。ネット通販も強化し、オムニチャネルにも取り組んでいきたい。具体化は今後の課題ですが、グループを挙げて、お客さまの暮らしをサポートできればと思います。
──多岐にわたる分野で取り組みを計画しているのですね。
千野 この6年あまり、愚直に「高質食品専門館」を中心とする店舗網拡大に集中してきました。それに伴い、業績も改善してきました。しかし今後も、経営環境は変化することが予想されます。
ゆるやかではあっても「永続的な成長」を続けるため、常に人材育成を中心に据えた経営を実践していきます。