貿易、食品工場、物流センター…こだわり実現する仕組みで差別化=成城石井 原 昭彦 社長

聞き手:下田 健司
構成:大木戸 歩
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店舗評価は売上より基本の徹底

──商品力の強化と両輪で、販売力の向上にも力を入れています。具体的にどのような取り組みがありますか?

 販売力を強化するための取り組みとして、店舗における接客力を定点観測しながら数値化し、人事評価に組み込むというものがあります。

 当社は06年から外部のミステリーショッパーを活用し、毎月1回、店舗のクレンリネス、あいさつ、欠品状況をチェックして点数化する仕組みを導入しました。基本を徹底することがリピート客の獲得につながると考えているため、人事評価上もこうした項目の優先順位を高くしています。

 業績低迷が続く店舗を見ると、やはり基本項目の評価が低い傾向があります。店長のコミュニケーション力やリーダーシップが、売場にも表れるのでしょう。逆にチームが一丸となって取り組んでいれば、最終的には売場にも反映されます。そのため毎月、数値化して確認できるようにしています。

──人事評価制度では、何を重視していますか?

成城石井 ジャム
通常は通年販売されることの多いジャムだが、同社は旬の果物をつかったオリジナル商品を品揃えして、季節ごとに訴求している

 当社の人事評価においては、店舗の売上高は評価項目に含まれていません。競合店ができた、もしくは競合店が撤退した、といった外部要因の影響を受けることもありますので、売上高は一概に店舗の取り組みを反映したものではないと考えるからです。

 一方で、本部が指定する「売り込み集中商品」の販売実績は、重要な指標です。毎月128前後のアイテムを選び、その商品を店舗で集中して売ります。こうした商品を決めるのは、その時々に何を売ればいいのか迷わないようにするのがねらいです。商品部が毎月商品を選び、店舗ごとに予算を組み、その販売実績によって店をランク分けし、それに応じて人事評価をしています。

──接客力を高めるために、どのような教育をしていますか?

 ひとつは、新日本スーパーマーケット協会が主催するレジ検定に積極的に参加しています。レジ検定1級の合格実績は、25人(退職者を含む)。そもそも1級合格者自体が250人程度ですので、10%は当社が占めている計算になります。2級が68人(退職者を含む)、3級が278人(退職者を含む)と、日本の食品スーパー(SM)の中でもトップクラスだと自負しています。レジはお客さまと従業員が最後に会話を交わす場所で、買物体験の印象を決める重要な場ですから、力を入れています。

 もうひとつ力を入れている検定が「食品表示検定」です。当社は自社でメーカー機能を持ち、輸入も手掛けていますので、食品表示をメーカー任せにはできません。これも上級取得者が17人、中級が53人、初級が190人。上位の資格取得者には、資格手当を付けて評価しています。

 そのほか社内研修にも力を入れており、チーズやワイン、コーヒー、紅茶については外部講師を招いた研修を実施しています。たとえばワインは全部で約80種類を飲み比べますが、その中ではワインの違いを理解するだけでなく、温度管理のできたワインとそれ以外の違いを比較するなど専門知識を身に着けます。そのうえで部門担当者になったり、店長になったりすると、接客の仕方が変わりますね。

 こうした研修に加えて、Eラーニングや海外研修などを含めると、年間数千万円を教育費に投資していることになります。

 当社が教育に力を入れるのは、商品の価値をきちんとお客さまに伝えられる従業員の存在も、他社との差別化を図ることにつながると考えているからです。食の分野が好きな人が成城石井の商品を知ると、商品がもっと好きになります。自社で見つけた商品を、お求めやすい価格で販売するための仕組みを考え、品揃えして店頭に並べる──という当社のビジネスモデルを理解することで、自社の商品に誇りを持てるようになるはずです。

今秋冬に新業態を開業へ

──今年の秋冬、東京・大手町に女性をメーンターゲットとした食料品店「EPICERIE BONHEUR 成城石井」を、12月には東京・麻布十番にワインバー「Le Bar a Vin 52」を開業します。出店戦略について教えてください。

 ここ数年は、年間10~15店舗程度を出店してきました。

 当社の店舗の中で最も小さいのは「グランゲート東京駅店」(東京都千代田区)の売場面積20坪、最大店舗は「東京ドームラクーア店」(東京都文京区)の190坪です。出店パターンは大きく分けて4つ。フルラインで生鮮食品を揃える店、青果や精肉の一部を扱う店、センターでパックした限られた生鮮食品を扱うグロサリー中心の店、そして30坪前後の小型店です。

 ただ、厳密には決まったパターンはないとも言えます。都市部で出店する場合には、さまざまな制約が重なります。たとえば百貨店などではほかに生鮮を扱う店があったり、酒販免許が取れたり取れなかったりする。さまざまな条件がありますので、それぞれのケースに柔軟に対応できることが必要です。フォーマットを固定してしまうと、出店機会が限られてしまうからです。

 新業態については、大手町の「EPICERIE BONHEUR 成城石井」は、嗜好性を追求した店舗です。麻布十番のワインバー「Le Bar a Vin 52」は店舗1階部分がSMで、2階部分をワインバーにしました。1階で購入した商品を2階のワインバーで試せるようにして、当社の商品を手軽に食べて、体験していただきたいと考えています。

──関東だけでなく、近年は中部や関西にも出店しています。今後、エリアや立地で注目しているのはどのような物件でしょうか。

 今期、来期も駅ビルや商業施設内への出店が多い見通しです。中部と関西には、年間1~2店舗ずつは出店したいと考えています。大阪まではセントラルキッチンでつくった総菜を毎日配送しています。エリアは、基本的に当社の物流網でカバーできる範囲内で出店していきます。

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