大型店を中心に競争を繰り広げてきた中国市場の小売業の間で、ここにきてある変化がみられている。コロナ禍による消費行動の変化に対応するため、大手小売業が、「社区(コミュニティ)生鮮店」と呼ばれる、近隣住民密着型の小型食品スーパーの展開に力を入れ始めているのだ。中国の都市部を中心に活発化する小型フォーマットの状況を見ていこう。
取材協力:高島勝秀(三井物産戦略研究所)
中華版!ウォルマートの小型フォーマット
中国市場において、小型フォーマットの開発で先行したのは小売世界最大手ウォルマート(Walmart)だ。同社はこれまで、本国の主力フォーマットである大型店による店舗網拡大を志向してきたが、2018年4月に小型スーパーの「恵選」を深センに出店。19年11月になると、小型フォーマットの開発・出店に注力する方針を打ち出し、同年末には小型フォーマットの屋号を「沃尔玛(ウォルマート)社区店」に変更。現在は8店舗を運営している。
「沃尔玛社区店」の店舗面積は約700㎡で、地元に密着した品揃えを特徴としている。コロナ禍では、顧客のニーズに対応すべく、ECで注文を受けた商品の店頭の引き渡しや宅配サービスもスタートしている。
アリババも小型店の開発をスタート!
「盒馬鮮生」を展開するアリババ(Alibaba)も19年5月、上海に小型フォーマットの「盒馬mini」を出店した。「盒馬鮮生」の店舗面積が約5000㎡であるのに対し、「盒馬mini」は約600㎡で、取扱商品の約7割が生鮮食品という“生鮮特化型”の小型フォーマットだ。「盒馬鮮生」と同様に宅配サービスも実施しており、店舗から1.5km圏内であればECで注目を受けた商品を無料で配送する。
「盒馬mini」の坪当たりの売上高は「盒馬鮮生」を上回っており、出店コストも大型店の1割以下に抑えられているという。大型フォーマットと比較して出店場所の選択肢が多いという利点を生かし、高速出店で店舗網を拡大する方針を示しており、店舗数は20年7月時点の6店舗から20年内に100店舗に拡大する見通しだ。
ポイントは「ECとの連携」
コロナ禍に見舞われた20年に入ってからは、小型フォーマットを開発する動きが活発化しており、20年8月にはイオン(千葉県)が広州で、同9月には蘇寧カルフールが上海で、小型スーパーの1号店をそれぞれ出店している。
蘇寧カルフールの小型業態「Easy」は、低温物流の仕組みと顧客データ分析を駆使して、仕入れや物流にかかわるコストを抑えるとともに、店舗から3km圏内を対象にECで受注した商品を1時間以内に配送するサービスも実施している。イオンの「生鮮便利店」は、「盒馬mini」と同様に生鮮食品に特化した小型スーパー。同フォーマットでも宅配サービスを行っており、イオン中国のECアプリとJD(京東)傘下の「京東到家」から注文を受けた商品を、1km圏内であれば1時間以内に配送する。
大型店の出店余地減少を背景に、欧米や日本でも、都市部における小型店の展開が小売産業の潮流となってきた。イオングループが展開中の「まいばすけっと」「マルエツプチ」はその典型と言える。
だが、ECサービスとの連携という観点から見ると、欧米や日本ではそうした取り組みは大型店が中心であり、小型店ではほとんど進んでいないのが現状だ。それに対し、中国の小型フォーマットはECとの連携を主眼においているという点で一線を画している。
こうした流れは、大型店の出店が遅れ、EC普及が先行した中国市場ならではのものであるかもしれない。だが、海外流通に詳しい三井物産戦略研究所の高島勝秀氏は「脱コロナ後もECシフトが継続すると見られるなか、ECと連携した『社区生鮮店』の展開は、ネットとリアルを融合させる先駆的な取り組みとして注目に値する」と話す。
ECと連携した小型店はアフターコロナ・ウィズコロナ時代の小売のスタンダードとなり得るか。中国で静かに増殖中の「社区生鮮店」に注目だ。