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10年で供給高が1.3倍!コープしがが10年かけて取り組んだすべて

生協宅配大

滋賀県を事業エリアとするコープしが(白石一夫理事長)は、10カ年の長期経営計画のもと着実に成長を遂げてきた。その最終年度となる2020年度、コロナ禍での利用急増を受けて業績が急伸。これを機にさらなる成長余地を見出し、店舗を拠点に、周辺のエリアで生協利用者を広げ、全体供給高を伸ばす方針を推進している。

宅配の新規利用者数が前年の約2.5倍に

コープしがでは、今後の成長を見据えて物流キャパシティの増強を図っていたことから、コロナ禍での需要集中を乗り切ることができた

 コープしがは1993年に県内4つの地域生協が合併して発足した。以来、宅配と店舗事業を柱に、福祉や共済などにも事業領域を広げてきた。2019年度の全体の総事業高(小売業の営業収益に相当)は355億円となっている。

理事長の白石一夫氏

 そうしたなかコープしがは10カ年の長期経営計画(長計)「2020年ビジョン」を推進している。11年度を初年度に、以降3年ごとに中期経営計画を定めながら、各事業の課題をクリアしてきた。20年度は長計の最終年度で、次の「2030年ビジョン」へつなげるための重要な年と位置づけている。

 そうしたなか発生したのが新型コロナウイルス(コロナ)感染拡大だ。コープしがもその他の生協同様に利用が急増した。とくに20年度第1四半期(4~6月)の供給高(同商品売上高に相当)は宅配事業が対前年同期比20.9%増、店舗事業が同16.3%増で、店舗、宅配ともに大きく伸長している。

 なかでも全体供給高の約8割を占める宅配事業では、近年は利用単価が減少傾向にあり、19年度の供給高は対前年度比0.2%減となっていた。それが、感染リスク防止の観点から宅配ニーズが高まったこと、またまとめ買いをする人が増えたことで、利用者数と利用単価がともに拡大。新規利用者数は、緊急事態宣言下の5月が同163.2%増、再び感染者数が増加した8月が同138.8%増ととくに増え、4~9月合計では同82.8%増の8686人だった。利用単価も4月から毎月、対前年同月比10%前後のペースで増加した。

 このように一気に利用が集中したことで物流には大きな負担がかかった。多い時で宅配供給高が対前年同期比40%増となった週もあった。

 そうしたなかでも、コープしがでは一部商品の欠品は生じたものの、物流量の増加に耐えられず、新規加入者の受け入れ中止や大幅な遅配などの問題を起こすような事態には至らなかったという。17年に今後の成長を見据えて東近江市にある「AZ-COM物流センター」を、物量が当時比70%増の物量に対応できるようにキャパシティの拡張を図っていたためだ。

 緊急事態宣言が解除され、ひと段落した7月。コープしがは宅配事業の新規利用者を対象にアンケート調査を実施した。そのなかで利用した感想を聞くと、「商品を届けてもらって助かっている」「生鮮の鮮度がよくおいしい」「配送の担当者さんが元気でやさしい」など、例年の同様のアンケートの調査結果よりも好意的な回答が多かった。

 この結果について白石理事長は「生協への期待度が確実に高まっていると感じた。コロナ禍はわれわれ職員にとって事業の存在意義や成長の余地をあらためて知る機会になった」と話す。

コロナ禍を経て宅配利用者に実施したアンケート調査では、例年の結果よりも好意的な回答を多く得られた。コープしがは成長の余地を見出しさらなる利用拡大を進める

新規出店を再スタート10年で供給高は約1.3倍に

長期経営計画では、不採算店を閉める一方、新店出店を再開し、店舗網の再構築にも取り組んだ。写真は2015年にオープンした売場面積約450坪の「コープもりやま」

 20年度で最終年度を迎えた長計では、主テーマに「事業の足場固め」を掲げる。この方針のもと、宅配、店舗、介護の3つの事業と、環境保全活動の計4つの分野において、将来的な成長に向けて強固な基盤を築くことをめざし各施策に取り組んできた。

 主力の宅配事業では、毎年1万人の新規組合員獲得を目標に着実にその数を伸ばしてきた。

 もう1つの柱である店舗事業では、売場面積20~80坪の小型店と、不採算店の計約8店舗を閉鎖する大改革に踏み切った。その一方で、組合員の生活への貢献をめざし、14年からは売場面積450~600坪の店舗を出店し、店舗網を再構築した。現在は計3店舗を展開し、19年度の店舗事業供給高は55億円と対前年度比で3.3%伸長する好調ぶりだ。このほか長計では、介護事業、環境保全活動においても独自の取り組みを進めた。

 一連の施策を地道に行ってきた結果、コープしがは着実に成長を遂げてきた。長計がスタートした11年度と19年度で見ると、総供給高は261億円から約1.3倍の344億円に、組合員数は14万6000人から約5万人増の19万7000人に拡大している。

 白石理事長は長計を次のように振り返る。「とくに20年ほど止まっていた、新規出店を再開したことは当生協にとって重要な意味があった。店舗事業の経営環境は年々厳しくなっているが、それでもコープしがの認知度向上と、組合員拡大への貢献度は高いと実感している」。

 このように店舗事業を重視するのは、店舗を投じるとその周辺地域で約1万人の組合員が新たに増えるという実績があるからだ。

 滋賀県内の生協の世帯加入率は34.1%だ(19年度)。そうしたなか、コープしがの店舗「コープもりやま」がある守山市は50%、残る2店の「コープぜぜ」「コープかたた」が営業している大津市は41.3%と高い水準で推移している。さらに直近はコロナ禍により世帯加入率は向上傾向にあり、20年度末には県内の世帯加入率が対前年度比で2ポイント向上すると見込んでいる。

生鮮3品の売上構成比5割へ来春に最大級の店舗を開業

コープしがの店舗では総菜を含む生鮮4部門を強化しているのが特徴だ。コープもりやまの鮮魚売場では、加工場が見えるようにガラス窓を採用した対面コーナーを導入し、鮮度感を訴求している

 店舗事業の存在が組合員数を底上げする実績を受け、コープしがは今後も、新規出店を着実に進める方針だ。

 次なる新規出店は来年春の計画で、滋賀県北部の長浜市に、同生協最大級となる売場面積600坪の「コープながはま(仮称)」をオープンする。周辺に多くの有力競合店が点在する、流通激戦区に出る格好だ。

 長浜店の開業は、コープしがにとって新たなチャレンジの側面を持つ。これまでの出店は、県内で人口が集中する南部だったのに対し、県北部のそれほど人口が多くない立地への出店であるためだ。「そうしたエリアにおいて、店舗を起点に、宅配をはじめ他のサービスも提案しながら、生協の総合力で全体供給高を伸ばしていくことが次の成長のカギになる」と白石理事長は述べる。

コープしがの店舗では総菜を含む生鮮4部門を強化しているのが特徴だ。コープもりやまの鮮魚売場では、加工場が見えるようにガラス窓を採用した対面コーナーを導入し、鮮度感を訴求している

 店づくりにおいては、生鮮食品の販売に注力する。コープしがでは、いずれの店舗も、総菜を含む生鮮4部門で供給高構成比5割以上を目標とする。生協ならではの安全・安心を訴求する産直商品を中心に独自の品揃えを提供し、差別化を図るねらいだ。

 中長期的にはさらに店舗網を拡大したい考えだが、まずは「コープながはま」を軌道に乗せることを最優先課題に、既存の3店舗の業務改善やローコストオペレーションも推進し、早期に店舗事業の黒字化をめざす。

 「2020年ビジョン」が終盤を迎え、コープしがではすでに次なる10カ年の長計「2030年ビジョン」の策定に向けて議論を重ねている。これまでの実績を踏まえ、「やくだつ」「つながる」「ひろがる」をテーマに、新たな施策にも取り組む方針だ。

 白石理事長は「滋賀県内には生協についてよく知らない方も未だ多い。生協の強みを積極的にアピールし認知度向上による利用拡大をめざす」と述べている。

コープしが概要

※2020年3月20日現在

本部所在地 滋賀県野洲市冨波甲972
創立 1993年3月21日
出資金 119億3420万円
組合員数 約19万7800人

コープしが直近5年間の経営概況

出典:コープしが

年度 総事業高 経常剰余 宅配供給高 店舗供給高
2015 302.3億円 9.2億円 268.6億円 21.8億円
2016 324.2億円 11.6億円 274.1億円 35.3億円
2017 341.3億円 9.8億円 276.8億円 43.8億円
2018 352.1億円 9.6億円 273.8億円 54.1億円
2019 355.2億円 8.0億円 273.5億円 55.9億円