[東京 14日 ロイター] – ソフトバンクグループ(SBG) を巡って浮かんでは消える「非公開化」観測が再燃している。英アーム株式を米エヌビディアに最大4兆円超で売却すると発表したことで、金融市場では現実味が増してきたとの受け止めが聞かれる。大型の資産売却はポストコロナをにらんだ動きとの見方もある。
関係筋によると、SBGの幹部らは、複数の大規模資産売却後の新たな戦略を模索する中、株式非公開化を巡る協議を行っている。14日には傘下の英半導体設計企業アーム・ホールディングスの全株式を半導体大手エヌビディアに約4兆2000億円で売却することで合意。関係筋によると、株式非公開化に向けた協議はアーム売却後に加速する可能性があるという。
物言う株主から自社株買いの要求を受けていたSBGは3月、4.5兆円の資産を売却・資金化し、2兆円の自社株買いと負債削減に充てる計画を発表した。これまでに、中国ネット商取引大手のアリババ株や通信子会社のソフトバンク株、米通信大手TモバイルUS株の売却や資金化に相次いで動き、資産の売却・資金化の目標は達成した。
今回のアーム株売却は、これに加えて打ち出したことになる。SMBC日興証券のアナリスト菊池悟氏は9日付レポートで、アーム株の売却が当初計画より前倒しされるなど資産売却を急ぐ印象があるほか、計画する自社株買いの規模が大きいことから「MBO(経営陣が参加する自社買収)による上場廃止も選択肢とみている」と指摘した。
SBGの時価総額は14日時点で約13兆3000億円。孫正義会長兼社長が3月末時点で21.25%を所有。一連の自社株買いでは取得した株式を消却するためその分、孫氏の保有比率は高まる見通しだ。残る株式の取得に必要な数兆円の資金も、アリババ株などの資産をさらに売却すればまかなうことは可能と、SMBC日興の菊池氏はみている。
仮に非公開化に向けてMBOに動くなら、買い付け価格には実際の株価にプレミアムが付くとみられる。東京市場でSBG株の14日終値は、アーム株売却の発表とMBOの思惑が相まって前営業日比8.96%高の6385円をつけた。
コロナ後への備えも
アーム株の売却は、コロナ収束後をにらんだ布石との見方もある。SBI証券の森行眞司シニアアナリストは「新薬などの開発が進んで市場が好転するなら、手元資金が潤沢な方が投資戦略の自由度が高まる」と見ている。
「投資会社に生まれ変わった」(孫社長)というSBGが重視する経営指標は、事業会社などで重視される営業利益などではなく、保有株式から純負債を差し引いた「株主価値」だ。
「株価は2000年のネットバブル以降高いところまできたが、株主価値に対してはディスカウントがついている」と、SBGの孫正義会長兼社長は8月11日の決算会見で不満を述べている。同日の株主価値は24兆4000億円で、時価総額はほぼ半分にとどまっていた。
こうした市場の評価と会社側の認識のギャップが、非公開化の観測につながっている面もありそうだ。上場のメリットの1つは新株発行を通じた資金調達だが、株価が十分に高まっていなければ、調達できる額もその分、目減りしかねない。むしろ非公開化して「投資戦略の自由度を担保した方がいいという判断もあり得る」と、SBI証券の森行氏は指摘する。