JRC桜井多恵子氏が「コロナ以前から流通危機は始まっている」と警鐘を鳴らす深刻な理由
食品スーパー、ドラッグストア、ホームセンターのいちばんの問題点
このように、よくも悪くも流通業界にコロナウイルス感染拡大の影響が出ているわけだが、「実はコロナ危機以前から、流通危機は始まっていた」と桜井氏は警鐘を鳴らす。
チェーンストア理論では、店舗あたりの売上を増やすのではなく、店数を増やすことで成長を実現する。ところが、フォーマットの同質化と飽和化に伴い、店数増加にストップがかかっているという。
「いちばんの問題は、一店あたり人口の激減だ。SMはわずか9000人で、役割が同じ生協の店舗を含めると7485人しかいない。ドラッグストアも7000人、HCも3万人を切っている。この現実は、このところ売上、客単価が上がっていようとも、変わりようのない事実だ。売上の好調さにかまけていては、打つ手が遅くなる」(桜井氏)
これまでは「同じフォーマット間の同質化」だけだったが、いまでは品揃えが似通ってきたため、異なるフォーマット同志の同質化へと進んでおり、事態は悪化する一途だ。
そこで必要なのが品揃えの見直し。「良いチェーンは、ベンダーまかせをやめ、独自のソーシングとバーティカルマーチャンダイジングを進めている。ダメなチェーンは個店対応に逃げているが、これをやると人時生産性(従業者1人あたり粗利益高のこと)が下がるだけだ」(同)
その人時生産性についても、各フォーマット大きな課題を抱えている。たとえばSMの場合、店段階では6000円があるべき数字なのに対して、8割のSMは2500〜3500円に止まっている。なぜ人時生産性が大事かといえば、あるべき労働分配率(=人件費/粗利益高)に引き下げて十分な収益性を確保した上で、人手不足下でも、他社よりも高い賃金にして有能な人材を確保できるようになるからだ。
「人時生産性6000円を実現できれば、労働分配率34%の場合、時間あたり人件費を2040円まで支払うことができる。これが人時生産性3000円であれば、同じ労働分配率の場合、1020円までしか払うことができない」(同)
課題山積の流通業。抜本的な作業改善と、バーティカルマーチャンダイジングの導入やローカルブランドの発掘等による他社と同質化しない品揃えの実現による粗利益率の改善が求められている。とくにコロナ禍が追い風となったSM、ドラッグストア、ホームセンターにとって、いま改革に取り組むか否かが、「風」が止んだ後の運命を決めることになりそうだ。