アパレルのEC化率が高まるほど、ユニクロに完敗する明快な理由

河合 拓 (株式会社FRI & Company ltd..代表)
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前回、「EC化率」は増えるが、あくまでも「率」であり、絶対額としてのEC売上高はどんどん減少する、と説明した。Amazonや楽天、Zホールディングスに顧客を奪われるからだ。今回は、その続き。「EC化率が高まるほどに、ユニクロに完敗する」というセンセーショナルだが、悲しい事実を、論理的に説明したい。

「CPAをLTVで回収する」というのは自己矛盾

Olivier Le Moal / istock
Olivier Le Moal / istock

 自らマーケターと称する人間にとって、広告を投下し顧客を獲得(Acquisition)し、その人の生涯価値 (Life time value、LTV )で回収するという念仏のように唱えられている手法がある。だが、実はこれは論理が破綻している。

 例えば、現在の「広告公害」の中で、広告で反応させて1人の顧客を「コンバージョン」(サイト訪問者が購入や資料ダウンロードなどの最終成果に到達すること)までもってゆくには、2万円弱必要だ。私は、通販企業の役員をやっていたので、この手の係数は死ぬほど使っていた。そこからもたらされた経験知でもある。ところが、これをあるアパレル企業の人に言ったところ、全く信じてもらえない。

 後々困るのはこの人だから、「まあ、勝手にすればよい」と無視していたのだが、会話を進めるうちに、この人は、コンバージョンまでではなくオウンドメディアに送客することをAcquisitionと呼んでいることがわかった。そうなれば、顧客から見て「無料」だから、CPA(Cost Per Acquisition)は3-400円/人となる。しかし、一旦、オウンドメディアに送客しても、そこからコンバージョンまでもってゆかなければビジネスとして成立しない。それを合理的に計算すれば、15,000円近くかかる。いや、オウンドメディアのコストにもよるがもっとかかる可能性もある。

 まず、そのオウンドメディアにコミュニティをつくらねばならないし、FacebookやInstagramのように、キュレーターと呼ばれる人がいなくても、消費者が自己増殖を繰り返す仕組みならばよいが、日本でそのようなものにお目に掛かったことがない。あえていうならZOZOのWEARが近いが、あれとて「知る人ぞ知る」オウンドメディアで、また、そこに群がる人の多くはファッション好きで特殊な人間であるということがわかっていない。ちなみに、私レベルの人間が写真をあげると、女性とおぼしき閲覧者が大量にいいねをするのをみると、サクラか?と疑ってしまうこともある(そんなことはないと思いたいが…)。

 加えていうなら、アパレル企業の営業利益率は1~2%で、商品の平均単価は3000円ぐらいだから一着売れて得られる利益は30円だ。コンバージョンまで合算したCPAが15,000円だったとしても、セット率(顧客一人当たり購入点数、売上点数÷客数)1.5点として、毎週必ず同じブランドで購入したとしても、回収に6年かかる。毎月、必ず同じブランドし買わない人などいるのだろうか。私が論理的に破綻しているという理由がおわかりだろうか。

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記事執筆者

河合 拓 / 株式会社FRI & Company ltd.. 代表

株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)。The longreachgroup(投資ファンド)のマネジメントアドバイザを経て、最近はスタートアップ企業のIPO支援、DX戦略などアパレル産業以外に業務は拡大。会社のヴィジョンは小さな総合病院

著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「生き残るアパレル死ぬアパレル」「知らなきゃいけないアパレルの話」。メディア出演:「クローズアップ現代」「ABEMA TV」「海外向け衛星放送Bizbuzz Japan」「テレビ広島」「NHKニュース」。経済産業省有識者会議に出席し産業政策を提言。デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言

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