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アフターコロナの小売像その5 ラストワンマイル攻防戦

アフターコロナはラストワンマイルの争奪戦が勃発する――。ラストワンマイルは、店舗あるいは物流センターといった拠点から、消費者の自宅に届けるまでの最後の物流を指す。このラストワンマイルを制するプレイヤーが、消費者に関する大量の情報を握ると言われている。アフターコロナのラストワンマイルはどのようなものになるか。

インスタカートはスーパーマーケットを中心に北米の350社を超える小売業と提携している

ネットスーパー拡大で問われるラストワンマイル

 「土曜日の昼時、『マックデリバリー』で注文しようとすると、所要時間80~100分と表示されました。ですが、ウーバーイーツで注文したところ、20分で商品が届きました」

 こう話すのは在宅勤務中の30代の会社員だ。

 在宅勤務、リモートワークは、アフターコロナも“新日常”として定着する可能性が高い。厚生労働省はLINEの公式アカウントで新型コロナウイルスに関する調査結果を公表している。そのなかで、オフィスワーク中心の約623万人にテレワークの実施状況を聞いたところ、その割合は全国平均で約27%にとどまり、政府が目標に掲げる出勤者7割削減にまったく届いていないことが明らかになった。ただ、東京都では51.8%がテレワークを実施しており、都市部ではテレワークを取り入れている企業が多いこともわかっている。

 こうしたテレワーク推奨の流れは、コロナ禍が収束すれば、以前に近い状況に戻るだろうというのが大方の見方だ。だが、この期間中に経験した、人と接触しないで買い物ができる「ネットスーパー」をはじめ、外で食事をしないでテイクアウトしたり、デリバリーを頼んだりする習慣は、コロナ禍収束後も続くとみられている。

 ネットスーパーサービスも拡大していくとみられ、アフターコロナの世界ではネットで注文して自宅まで届けてもらうという購買行動が生活の一部として習慣化するだろう。

 こうした点を踏まえると、外食チェーンや小売店は、ラストワンマイルを埋める物流拠点を自前で保有するよりも、アウトソーシングしたほうが高い効率を期待できる可能性が出てきた。冒頭の会社員の言葉からもわかるとおり、ラストワンマイルを埋めることに特化した業者は対応が迅速であり、CS(顧客満足度)も高くなる。

コロナ禍の米国では買物代行サービスが台頭

 米国では、コロナ禍を背景に買物代行サービスのインスタカートが業績を伸ばしている。インスカートは業態の垣根を超え、多くの小売業と提携を結んでおり、北米5500か所以上の地域で事業を展開。米国内世帯の85%をカバーしている。

 コロナ禍で利用件数も急増しているという。フォーブス日本語版によると、インスタカートの利用者は、新型コロナウイルス感染症が拡大した4月の第1週と第2週でそれぞれ7億ドル(約725億円)の買物をしたそうだ。

 インスタカートは、食品スーパーだけでなく、ドラッグストアやペットショップなどとも提携関係にあるのが強みだ。インスタカートは日本ではまだサービスを展開していないが、ダブルフロンティア(東京都)の「ツイディ」のように買物代行サービスを展開する事業者も台頭しはじめている。今後、買物代行サービスの裾野が拡大していく可能性は決して低くない。

 ラストワンマイルを埋めるサービスは、商品を運ぶだけでは儲からないため、広告収入などにより利益をねん出しているのが現状だ。だが、今後は蓄積した消費者の購買データを活用することで、高い収益性が期待できると言われている。

 たとえば、「Z地区に住むAさんは毎週何曜日にこの商品を注文する」ということがわかれば、こうした購買行動に合わせたマーケティングや販売促進を展開することができる。こうした情報はメーカーも喉から手が出るほどほしい情報だろう。

 今後は、自宅配送サービスの仕組みをいちはやく確立し、より多くの購買データを蓄積したプレイヤーが台頭する時代に突入するかもしれない。その過程では、ラストワンマイルを制するところが大きく存在感を発揮することになりそうだ。