本当の敵はユニクロ!?苛烈なアフターコロナのアパレル業界の世界
ユニクロとその他アパレルの
コスパの違いは 3倍から5倍
私は、ユニクロのイタリアン梳毛糸を使ったリブウールのセータ (1250円)をアパレル企業に持ち込み、同じものを売価がいくらなら作れるか、という実験をした。その結果は「5500円」だった。その差は4倍である。同じような商品でありながらこれだけの価格差があるのだから、いくらWebだ、オムニチャネルだ、デジタルマーケティングだ、AIによる需要予想だといっても勝負になるはずがない。改革すべきポイントが全くズレているのである。
そうした中で商社は、下工程、上工程とデータ連係を行い、すべての工程を「見える化」し、適切なプロフィットシェアを約束し、無駄なミドルマンを排除してシンプルな商流 (=CPFR) を作るべきだ。先が読めない、あやまったQuick Response (QR)をいまどきやっているアパレルとは付き合わない。私が提言するZARA型MDで、生産稼働を安定化しているアパレルとだけ付き合いするべきだ。
また、商社が川中で商品に20-30%もの口銭をのせ、商流をブラックボックス化させた商品を仕入れるアパレルが、ユニクロに勝てる時代ではない。唯一解は、バリュチェーンの製販統合を行い、工場、商社、アパレル・リテーラーの3社全てがデータを開示し、相互に連携し合うことである。アパレル・リテーラーにはお客だけを見てもらい、素材調達、物流配送、工場稼働など、重複機能をデジタル統合し、アパレル・リテーラーの要求を、最低価格の最高品質で現実化させるデジタルSPAプラットフォームをつくる以外に生き残る道はないのである。
他産業に目を向ければ、パソコンや家電製品などは、部品や資材の共有化が当たり前のように行われている。例えば、私の趣味である一眼レフカメラ。このカメラセンサーは、世界中がソニーのモノを使っているし、自動車産業に目を向ければ、今では、ドイツのBMWとトヨタのスープラが、同じプラットフォームを使い、ルノーと日産などは「上物を外せば中身は一緒」という時代である。
日本という縮小する市場に2万社ものアパレルがひしめき合い、それぞれが全く連携せずに個別に素材を発注し、物流を行っているなどというのは産業効率が悪すぎる。本来商社は、寝技と腹芸で口銭を奪うのでなく、こうした企業間重複機能をデジタル技術を使って統合して産業効率を上げる役割を果たし、適正価格の口銭を対価としてもらうべきだ。また、数億円規模の投資ができない中小アパレルのため、商社が代わりにデジタル投資を行い、彼らのイニシャルコストを負担し、アパレル企業にサブスクリプション型でデジタル技術を提供するのである。
「コバンザメ戦略」(儲かっているところのOEMしかやらない)と「南下政策」(デジタル化による生産性向上でなく、人件費の安い南の国へ移ってゆくこと)では、商社はもはや「自らユニクロと無印の二社しかやりません。あとは、コスト競争でがんばります」といって、破滅の道を歩んでいるのと変わらない。商社こそ今こそ変わらなければならないのである。
次週、アフターコロナの世界について、さらに2つのシナリオを紹介したい。
プロフィール
河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)
ブランド再生、マーケティング戦略など実績多数。国内外のプライベートエクイティファンドに対しての投資アドバイザリ業務、事業評価(ビジネスデューディリジェンス)、事業提携交渉支援、M&A戦略、製品市場戦略など経験豊富。百貨店向けプライベートブランド開発では同社のPBを最高益につなげ、大手レストランチェーン、GMS再生などの実績も多数。東証一部上場企業の社外取締役(~2016年5月まで)