A.T.カーニー福田稔氏が見通す、GMS改革、セレクトショップ、ECの未来
デジタル技術がアパレル産業を変える
──AIはアパレルビジネスにどんな影響を与えますか。
福田 「攻めのAI」と「守りのAI」があると考えています。「攻めのAI」はたとえばデザイン。当然プロンプト(指示文)を打ち込むという人間の役割は残るのですが、「Midjourney(ミッドジャーニー)」のようなデザインを一気にやってしまう画像生成AIが今後増えていくでしょう。ファストファッション企業なら業務効率化の観点で大きな効果をもたらすと思います。
販売面でも、Eメールマーケティングを全て生成AIがやると、一人一人カスタマイズして文章を作れるようになり、マーケティングの質が上がり、買い上げ点数の増加にもつながります。チャットボット(自動応答システム)も同様です。いろんなところでトップラインに効いてくるような使い方が実装されてくると思います。
さらにパーソナライズエンジンというのがあって、ECサイトのトップページの配置を人によって変えるという技術があるのですが、生成AIがエンジンに入ってくると、さらに精度が増して最適化が進みます。
──他にもアパレル関連で注目されている企業や技術はありますか。
福田 デジタル技術ではCLO(クロ)です。元々韓国の3D(3次元)サンプリングをやっている会社で、日本にはCLO Virtual Fashion Japan(CLOバーチャルファッションジャパン:東京都/Jung Huk Boo社長)があります。アパレルは通常、サンプル品をつくり、補正などをして本生産に入りますが、CLOは補正をそれらのすべてソフト上の3Dでやってしまう。グローバルSPAの廉価版のラインで、サンプルをすっ飛ばしてCLOを使い、直接本生産に入る流れがこの5年ぐらいで普及してきています。
人気ゲーム「フォートナイト」を提供している米国のエピック・ゲームズ社もCLOに出資し、CLOでつくった3Dモデルをアバターファッションにエクスポート(出力)できる機能を開発しています。作成に時間のかかるデジタルファッションが、エクスポーターができることで一気につながるようになるのです。これが完成すると、デジタルファッションがさらに盛り上がると思います。
アパレル企業にとってメタバース(仮想空間)がチャンスなのは、環境問題です。デジタルの世界は基本的にモノを作っても環境負荷が増えない。デジタルファッションはこれから間違いなく伸びるので、その技術の中心に入ってくるスタートアップ企業やデジタル系の企業はチャンスがあるでしょう。