消費者自ら参加し運営する「生協」 株式会社にはない価値と弱点とは
生協が生み出す「ブランド価値」とは
生協のこの特異なビジネスモデルはさまざまな作用(副作用含む)を生み、私の初版である『ブランドで競争する技術』でも大いに語られている。オーナーが投資家である株式会社のオーナーの目的が「利益追求であるのに対し、オーナーが一般消費者かつ利用者であれば、会社の事業目的は「消費者に向けられる(はずだ)」と多くの人が理解できるようになった。そこからいろいろな伝説やストーリーが生まれてきた。
例えば、野菜が不作で全国的に価格が高騰していたとき、「生協で売られている野菜だけは価格を不作前と合わせていた」という話を聞いたことがある。これは聞いた話なので、本当のことなのか、そしていつのことなのかは残念ながらわからない。しかし「理屈上。生協であれば可能なことで、あり得る話だ」と感じられる。一方、株主の元で利益を追求しなければならない一般企業であれば不可能なことであっただろう。
当然、生協運動を強く推進、賛同する人が資本主義の「資本家」側と距離を置きたがる傾向は、今も残っているだろう。逆に、直接は一切関係ないのだが、共産主義、社会主義のように、人を搾取する側と搾取される側にわけ、搾取される側に立ち変革を叫ぶ政治的イデオロギーと結びつきやすく、それらの主義・主張を持つ人達から称賛されることも副作用の一つだ。また、非資本家側ということで労働組合と生協は実際、連携の事例がある。
資本主義の象徴とも言える「株式会社」というメカニズムはときに私たち消費者を騙し、儲け主義を優先させる。生協なら、その活動そのものがシステムとして消費者の方を向いているという意味で、一定の層にとっては「ブランド」なのである。
こうしてできあがった単協(個別の生協)をとりまとめる役割として、日生協(日本生活協同組合連合会)というまとめやくがボトムアップでできあがったのだ。同じ食品を売るといっても、例えばイトーヨーカ堂が本社をつくり、店舗をあちこちに作っていったというのとは根本的なところで違っている。ボトムアップのヒエラルキーなのである。
しかし、現実的にはイトーヨーカ堂やイオンなどの株式会社同士の熾烈な競争を勝ち抜いた小売企業の方が、消費者にとっては全体として「コスパ」がよい。簡単に言えば、消費者は同様のものを安く購入することができる。株主が利益追求しかしないので、コスパが悪くなるというのは幻想であり、実態は「競争に勝つためには徹底的な経営努力を行い、高いコスパを実現している」のである。利益追求型の人達がオーナーだから、品質を犠牲にしてでも利益最大化を狙うというのは過った考え方である。徹底的な経営努力がとくにイノベーションを起こしている。
こういう背景から、熱心な生協組合員のペルソナ像は以下のような人達になる
- 学校の先生、公務員などいわゆる「堅実」「真面目」志向の人が多い
- 食品の安全性についてこだわる人が多い(生協に対する食の安全性の信頼は企業組織と比べて高い)。子育てをきっかけに利用を開始する人も少なくない
- とくに高齢者層の生活に溶け込んでおり、母から子へという流れで続いている
株主が取締役を選び、取締役が事業をドライブする株式会社に比べ、生協は消費者自身が消費者のために運営する。しかし、目的だけでは「高いコスパ」や「イノベーション」は生まれにくいということなのだ(もちろん例外はあるだろう)。一方、その目的と特異性ゆえ、「生協」は大きな「ブランド」なのである。
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プロフィール
株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。
著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「
筆者へのコンタクト
https://takukawai.com/contact/
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