企業再生のプロが明かす、優れた戦略以上に「飲みニケーション」が企業再生に重要な理由

河合 拓 (株式会社FRI & Company ltd..代表)
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「クイックヒット」を数多く打て!

クイックヒットをできるだけはやくに出すことが大事だ(Delmaine Donson/istock)
クイックヒットをできるだけはやくに出すことが大事だ(Delmaine Donson/istock)

 再生が始まった組織では、度重なるリストラと「土足で上がりこんでくる外部の人間」に、不安と疲弊が入り混じった状態になっている。彼らにとって真っ先に必要なのは「短期で出せる成果」による「成功体験」だ。我々は、こうした「短期に出せる成果」のことを、「クイックヒット」と呼んでいる。

 クイックヒットは必ずしも経営課題と直結していなくてもよい。成果の大きさよりもスピードのほうが大事だ。我々の経験から言えば「最初のクイックヒットは1カ月以内に打て」である。

「成長は成果を生み出す」というが、現実は逆で、「成果が成長を生み出す」というのが我々の実感である。とにかく小さな成果を組織で共有し、挙げた成果を全員で喜ぶ雰囲気を作り上げる。こうした「小さな成果」の積み上げによって、組織の戦闘能力はどんどんあがってゆく。

 復活の秘訣、「ABC」の徹底とは?

 再生事業を復活させることができる秘訣を一言でいえ、といわれれば、我々は「ABC」と答えることにしている。

 ABCというのは、「A=あたりまえのこと」を「B=ばかにせず」、「C=ちゃんとする」の頭文字をとったものだ。業績不振企業に入り込むと、我々のような外部スタッフに、一振りしたらすべてが変わる「魔法の杖」を期待している人が多いことに驚く。しかし、我々が手伝えることは、経営と実務のPDCA (Plan Do Check Action)をひたすら実直にまわすことだけだ。こんな当たり前のことができていない、また、我々から言わせればやり方が甘いのが現実だ。「改革のレバー」(ここを引けば改革が進む)は、ABCプロセスの中にあることが多い。

 たとえば、大した調査もせずに海外の市場は駄目だという。私が「そんなことはない」といっても、聞く耳を持たない。二言目にはネガティブな意見を言ってお茶を濁す。そんなときは、「なら、一緒に調べに行きましょう」と海外に同行する。現場に出て、現実に海外の顧客と交渉をする。もちろん、うまくいくこともあるし、失敗することもある。しかし、不振企業の組織では、こうした「即実行」というアクションがとられず、企画に対しての検証が放置されていることが多い。「海外出張は金がかかる」とか「この大事なときに旅行か」などと嫌味を言われ、つぶされてしまうのが落ちだ。また、なぜか日本人的発想というか、海外出張に行けば、必ず成果をあげてこなければならないという恐怖感から出不精になる、また、こういうやり取りが面倒くさいから海外に行くのをためらってしまう。こんな理由で、社内に評論家が増えてゆくのである。

飲み会から逃げてはいけない

 最近では、「最後は飲みニケーション頼み」という管理職はダメ上司の典型として茶化されているが、現実はそんなことはない。レポート業務中心のコンサルタントならいざ知らず、我々のように現場に入り込んで実務を行う側からしてみれば、飲み会は信頼を得るためのきわめて重要な場である。特に、業績不振の組織では旧体質の文化が残っており、いまだに「夜の居酒屋」で重要事項が決定することが多い。また、「飲み屋で最後まで付きあえる人」に対して信頼感を感じるというのも事実だ。特に、アジアなどの現地法人とのコミュニケーションは「酒の酌み交わし」は信頼獲得の必須条件である。

 飲み会が批判されるのは、酒の勢いに任せて上司や会社の悪口を一緒に言ってしまうからだ。また、生産性のない議論を延々としてしまい、次の日に遅刻をするとか、ノミュニケーションに参加できない人が仲間はずれにされてしまうからである。

 だから、酔ったとしても正論を言い続ける、会社の悪口を言い始めた社員に対して毅然として夢を語るなど、自分のスタンスを守り抜けばよい。

そうした負の部分さえしっかりコントロールさえすればプラスの効果、たとえば、そうすれば、本音を聞き出し、たまっている鬱憤をテーブルの上にだすことで人として信頼を確認できる場としてこれほどよい場はない。もちろん、すべての人に飲みニケーションを勧めるわけではないが、可能であれば積極的に参加し、現場に交わろう。

 

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記事執筆者

河合 拓 / 株式会社FRI & Company ltd.. 代表

株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)。The longreachgroup(投資ファンド)のマネジメントアドバイザを経て、最近はスタートアップ企業のIPO支援、DX戦略などアパレル産業以外に業務は拡大。会社のヴィジョンは小さな総合病院

著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「生き残るアパレル死ぬアパレル」「知らなきゃいけないアパレルの話」。メディア出演:「クローズアップ現代」「ABEMA TV」「海外向け衛星放送Bizbuzz Japan」「テレビ広島」「NHKニュース」。経済産業省有識者会議に出席し産業政策を提言。デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言

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