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あの「SHEIN」を参考に、ワークマンがクイック・レスポンス生産に乗り出した狙いとは

ワークマン(群馬県/小濱英之社長)が、短期・少量生産のクイック・レスポンス生産(以下QR生産)に乗り出した。これまで同社は長期・大量生産でコストパフォーマンスの高い商品を販売し、強みとしてきた。その真逆といえるサプライチェーン体制の導入には、どのような狙いがあるのか。製品開発部第4部長の多賀寛悦氏に聞いた。

トレンドを追った商品を開発・販売する

Workman Colors イグジットメルサ銀座店

 作業服や機能服を中心に、高機能ながら低価格の商品を開発・販売し、支持を広げてきたワークマン。高いコストパフォーマンスを実現してきた裏側には、商品を発売する1年前に発注し、工場の閑散期に1品あたり数万〜数十万枚を量産する計画生産でコストを抑える仕組みがあった。

 一方、中国発のアパレル通販・SHEINなどで採用されているQR生産は、売上やトレンドに敏感に反応して多品種・小ロットで商品を製造・販売する。販売機会のロスを減らせ、少量生産で在庫の滞留を防げることがメリットだ。

 ワークマンがQR生産に乗り出した背景には何があるのか。多賀氏は2023年9月に新業態「Workman Colors」を東京・銀座に出店するにあたり、既存の「ワークマンプラス」「#ワークマン女子」と差別化する必要性を感じたという。

  「若い女性のお客さまに直感的に手に取ってもらえるような商品がほしい。そのためには、トレンド要素をしっかり加えたラインナップを構築していかなければ。そういう話からスタートした」(多賀氏)

 つまり、商品の見せ方を変えて売るだけではなく、しっかりトレンドを追った商品を開発・販売する、若い層をターゲットに狙った戦略からだ。想定した購買層は20代前半。そうすることで「ワークマンプラス」「#ワークマン女子」も共存できると考えたという。

 その構想が生まれたのは、新業態として「Workman Colors」を出店することが決まった約2か月前、2023年の年明けごろ。中国発のアパレルECジャイアント、SHEIN(シーイン)のノウハウを参考に、工場を開拓することから始めた。

 「ワークマンが製造を委託している工場はASEANを中心に大規模な工場が多いが、QR生産に関しては、上海近郊の複数の工場に声を掛けてパートナーを選定、最終的には5つの工場に絞り込んだ」(同)

小ロット専門工場

4つの価格帯で販売した商品が数週間で完売

 工場の選定にあたっては、小ロット生産ができること、商品を出荷する港に近いことを重視した。同時進行で素材の手配にも着手。同社ではこれまで、新商品を開発するにあたり、一から素材を作ることが多かったが、短納期を実現するために、既存品に採用されている生地のほか、市場に出回っている生地も同社の品質基準をクリアしていれば採用した。

 パートナーの工場にはQR生産のチームを作ってもらい、急ピッチで生産・流通の体制を構築していった。その中には以前から計画生産で付き合いがあった取引工場も含まれるそうだ。具体的には「輸送期間を短縮するために、狭いエリアに集中させた工場で、複数のアイテムごとに振り分けて、一気に生産する体制を確立した」と多賀氏。

 マーケットリサーチは韓国で行い、10名規模のチームを結成して弾丸ツアーを組み、日本でも人気のヤングファッションを中心に視察し、デザインに活かしたそうだ。

韓国視察の様子

 従来通りの計画生産を管理しながら、QR生産をスタートさせた多賀氏は 「本当に時間がない中で、これまでとはまったく違う作り方をしなければならない。時間軸が異なり、頭がごちゃごちゃになりそうだった」と苦労を振り返る。

 幸運だったのは「昔から日本企業との取引がある中国の縫製工場には、日本市場向けの品質をクリアできる技術を備えたベテランのスタッフが、今も数多くいる」こと。工場を選定するうえで意識したポイントの一つであり、多賀氏は「正直、すごく助けられた」と話す。

 こうしてQR生産され、店頭に並んだ新商品は10品目。2023年秋冬向けのアイテムは980円、1,280円、1,500円、1,900円という4つの価格帯で販売した。結果としては数週間でほぼ完売。多賀氏は「選んでもらえた実感がある」と手応えをにじませる。

 従来のワークマンの商品と比較すれば、やや割高な印象だが、他のブランドと並べると、じゅうぶん安く感じられる。「いわゆる機能商品ではないものを、一般のお客様に選んで買っていただけた。新しい方向に舵を切り、購買層の幅を広げられた手応えを、結果を見て感じられた」と多賀氏は話す。

売れ筋の商品は大ロットに転換

製品開発部第4部長の多賀寛悦氏

 QR生産したアイテムの取扱数は2024年春夏向けで25品目、2026年度までにはレディース衣料の2割に引き上げる方針だという。メンズのカジュアルウエアもアイテムに加え、ミニマムスタートで5~6品目からの販売を予定している。取り扱うのは主に「#ワークマン女子」で、同店での取扱商品の構成比は、4割が女性アイテム、4割がユニセックス、残りの2割が男性アイテム。つまり6割の商品が男性にも対応しているのだ。

 ワークマンは、全業態合わせて2023年9月末に1000店舗を達成。中長期的には1500店舗での展開を目指している。「Workman Colors」は東京の新宿、渋谷、大阪の梅田などに計10店舗を展開する予定。現在約50店舗を展開している「#ワークマン女子」は近いうちに倍増させ、10年後には400店に拡大させる計画だ。「ワークマンプラス」は新店も含めて900店、従来の職人向け作業服や機能服を中心に取り扱う「ワークマン」は200店舗の展開を見込む。

 「QR生産の小ロット・短納期のアイテムで、店舗ごとの商品の差別化を図る。その中で売れ筋となり、全国規模で広く受け入れられる商品は大ロットに転換していく。ただし大ロットでの生産を前提にすると商品の鮮度が下がってしまうので、常に新しい商品を小ロットでつくり、積極果敢に挑戦していく。そうしたサイクルが生まれるのが理想」(多賀氏)

  新しい商品が短いスパンで店頭に並ぶようになれば、商品が回転し売場の鮮度も高まるので、顧客の来店頻度が上がりそうだ。店舗を運営するFC加盟店のオーナーにも、仕入れる商品の選択肢が広がるメリットが生まれるのではないか。

  高機能・低価格なコストパフォーマンスの高い商品、トレンドを反映させたファッション性の高い商品、その両軸で売上を支える仕組みをつくり、継続的な成長を目指すワークマンの試みは奏功するか。今後の動向に要注目だ。