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PBはサイトの消費者の声でリニューアル=ヨークベニマル 大高善興 社長

セブン&アイ・ホールディングス(東京都/村田紀敏社長)傘下のSM(食品スーー)事業セクターである、ヨークベ ニマル(福島県/大高善興社長)とヨークマート(東京都/川上達郎社長)が2010年3月に完全統合する。2社はこの3年間、着実に統合の準備を進め、す でに10月には店舗デザインを統合するなど、統合のシナジー効果を上げている。一方、ヨークベニマルの大高社長が開発プロジェクトのリーダーを務めるグ ループのPB(プライベートブランド)「セブンプレミアム」は、国内だけでなく、アメリカを手始めに海外でも商品を発売する、新たなステージへと踏み出し た。大高社長に、SM事業の統合の進捗状況と、セブンプレミアムの今後の開発について聞いた。

着々と進むヨークマートとの統合、10年3月にはSM事業を完全統合

ヨークベニマル社長 大高善興(おおたか・ぜんこう) 1940年生まれ。58年、福島県立郡山商業高校卒業、紅丸商店(現ヨークベニマル)入社。62年、常務取締役。84年、専務取締役。94年、副社長。2000年に代表取締役社長就任。03年、最高執行責任者。

──2010年3月のヨークマートとの完全統合に向け、さまざまな面で2社の統合が進んでいます。その一環として、09年10月末にオープンした2社の新店では、店舗デザインを統一しました。新しい店舗デザインはどんなコンセプトに基づいているのですか?

大高 ヨークベニマルでは、10月30日にオープンした堤下店(福島県郡山市)から新バージョンを採用しました。ヨークマートは、10月28日にオープンした東 道野辺店(千葉県鎌ヶ谷市)から新しいデザインになりました。ただ、ヨークマートは2層の複合商業施設に入っているので、少し2店のイメージは異なります が、基本的には内・外装を同じものにしています。

 シンプル、あたたかみがあってナチュラル、ローコストを基本コンセプトに掲げ、アメリカのデザイナーや国内の設計会社と一緒に新しいデザインを検 討してきました。私がアメリカの店舗を見て、基本的なコンセプトを決めましたが、具体的には当社の真船幸夫専務執行役が中心になって、若手社員と次の世代 につないでいく新バージョンをつくり上げたのです。新バージョンといっても、従来のデザインと極端に変わったわけではありませんが、あまりお金をかけず に、いいものができたと思っています。

 外装ではハトのマークをタワーの中に入れて、あまり目立たなくなりましたが、夜にライトアップすると結構目立ちます。また、内装もシンプルにして、淡色でまとめました。内装に合わせて、従業員のユニフォームも替えて店舗全体が明るくなりました。

 店内は4mの天井高は変えず、床材の質も落とさずに、あまり見た目は変えていませんが、見えない部分でローコスト化しました。店舗デザインを統合し資材や什器などを2社で共有化して、建築コストを従来よりも約10%下げることができました。

 今後は、このデザインをセブン&アイ・ホールディングスのSMセクターの全店舗で採用していきます。既存店も改装を機に新デザインに変えていく予 定です。今後も10年2月までに15店舗ほど改装して、茨城県に店舗展開している「スーパーカドヤ」の店舗を中心に新デザインを導入していきます。

──ヨークマートとの機能統合は、どんなかたちになるのですか?

大高 10年3月には、本部機能、組織、商品コードなどもすべて統合します。本社機能をセブン&アイ・ホールディングス、本部機能はヨークベニマルに持たせ、 ヨークマートには営業本部的な機能を残します。すでに、ヨークベニマルの情報システムは約300店舗をカバーできるものになっていて、SMの本部機能を移 すにしても、ほとんど新たなコストがかかりません。そのため、機能統合でいちだんとコストダウンでき、大きなシナジー効果が得られます。

 08年からは店舗開発部隊も統合して、ヨークマートは計画を上回る新規出店をしています。09年10月にオープンした東道野辺店は、既存店を移転 増床したのですが、開店以来、売上は対前年比30%増と好調に推移しています。この3年間でヨークマートの経営数値も改善が進み、経常利益率は3%に上 がっています。今後は早い時期にこれを4%まで引き上げたいと考えています。

 しかし、店舗デザインを統一したといっても、南東北を地盤とするヨークベニマルと、首都圏を地盤とするヨークマートでは、コストや収益の構造が まったく異なります。とくに、家賃や人件費には大きな差があります。また、商圏特性もちがいますから、当然MD(商品政策)、ターゲット、客層もちがって きます。ですから、今後はヨークマートも新店を出しながら、きちんと利益を出せる、独自の新フォーマットをつくっていきます。共有できるものは共有してス ケールメリットを追求していきますが、フォーマットはそれぞれでつくって自立していかなければなりません。

シェルガーデンの新店もサポート

──セブン&アイ・ホールディングス傘下のそごう・西武(東京都/山下國夫社長)の子会社であるシェルガーデンの新店づくりも支援しています。

大高 10月23日に、西武渋谷店(東京都渋谷区)の地下の食品売場を全面改装して、シェルガーデン(東京都/飯田晴雄社長)の「ザ・ガーデンプラス」がオープンしました。

 今まで同店の地下は何をやってもうまくいかず、09年5月にどうしたらいいかと相談を受けました。従来のデパ地下は高級品が中心で、たとえば、お 客さまが今晩はすき焼きにしようと思ったら、専門店をいくつか回って、買物に長時間かかってしまって不便でした。そこで、もっと日常的な暮らしに役立つ、 メニュー提案がきちんとできるSMにしたらいいのではないかと提案しました。ベーシック商品にワンランク上のベターゾーンの商品を足した、新しいコンセプ トのシェルガーデンとして、「ザ・ガーデンプラス」という店名にしました。

 地下全体の売場面積は約500坪ありますが、そのうちの300坪をSMにして、残り200坪にパン、スイーツなどの専門店を導入しました。SMの 店舗運営は、グループのイトーヨーカ堂(東京都/亀井淳社長)とヨークベニマルが応援しています。イトーヨーカ堂から青果、精肉、総菜部門、そして、ヨー クベニマルからは加工食品とデイリー部門にそれぞれスタッフを派遣しています。まさにグループ3社が共同でつくった、首都圏における新しいSMです。

 最初は品揃えの比率をベーシック8対ベター2にしました。しかし、オープン後の動向を見ると、それでは商圏に合わないので修正して、今はもっとベターゾーンの商品を増やしています。

 私もはじめて都心の店づくりをして、あらためてヨークベニマルとのちがいに驚きました。たとえば、「ザ・ガーデンプラス」では1本98円のバナナ がよく売れ、1房98円のバナナはほとんど売れません。また、豆腐や1リットルの牛乳、野菜の土物、3食入りのラーメンなども売れません。今後もお客さま の声を聞きながら、いろいろ手直ししていく予定です。私も週1回、店舗を見ていますが、現場の人間でなければわかりませんから、こちらもヨークマートと同 様、最終的にどんな店舗にしていくかは、シェルガーデンが独自に決めていきます。

 また、西武池袋本店(東京都豊島区)の食品館の改装にも協力し、地下2階の生鮮ゾーンと地下1階の総菜専門店の部分を大幅に変えて、11月28日 に改装オープンしました。生鮮は従来のベターゾーンとベストゾーンの品揃えに、ベーシックも加えて、客層拡大をねらいます。牛肉ならば、100g98円の 輸入牛まで扱っています。また、総菜専門店も入れ替えて、日常的に買える価格帯の店を揃えました。グループのシナジー効果を生かして、西武の新しい方向性 を示した売場になりました。

グローバルPB第1弾を発売

──大高社長が開発プロジェクトのリーダーを務めるグループのPB「セブンプレミアム」では、新商品のワインをアメリカと同時発売して、話題を集めました。

大高 セブンプレミアムは、10年2月期で約1100アイテム、売上高約3200億円になる見込みで、ほぼ当初の計画どおりに推移しています。加工食品の売上高 における構成比は約10%、粗利益額構成比も約15%を占めるまでになっています。つねづね、PBはたとえ売上高が取れなくても、各カテゴリーの粗利益改 善に貢献しなければ、開発する意味がないと言ってきましたが、粗利益改善にも大いに貢献しています。

 11月4日には、グローバルPBの第1弾として、カリフォルニアワインの「ヨセミテ・ロード」(カベルネ・ソーヴィニョンとシャルドネの2品、各598円/750ml)をアメリカと同時発売しました。

 これは、セブン&アイ・ホールディングスのアメリカの子会社であるセブン-レブン・インクから「日本のPBを共有したい」という申し出を受けて開 発しました。カリフォルニア産の良質な単一品種のぶどうを原料にして、世界トップクラスのワインメーカーの「ザ・ワイン・グループ」が栽培や品質の管理を 一元化してつくっています。セブンプレミアムの開発ノウハウを生かして、原材料を一括調達して生産コストを削減し、598円(アメリカでは3ドル99セン ト)という低価格を実現しました。

 国内のグループ6社とアメリカのセブン-イレブンの合計約1万5000店舗で扱い、発売後1年間で日米合計約300万本を売る予定です。ワイン専門家からも「価格の2倍くらいの価値がある」と高く評価されています。

 今後は、10年度までにコーン缶詰、ツナ缶詰、コーヒー、果汁飲料、チーズなど、10品目のグローバルPBを発売し、アメリカだけでなく、アジアでの展開も視野に入れています。

──PBの課題は何でしょうか?

大高 セブンプレミアムの開発を始めてから2年以上たちましたが、ここにきて少し壁にぶつかっているようなところがあります。

 チェーンストアのPBは、1990年代にダイエー(東京都/西見徹社長)さんなどが積極的に開発したのを第1ステージとすると、ここ数年の各社の PB開発の広がりは第2ステージに位置づけられます。ここに来て、NB(ナショナルブランド)メーカーもPBに対抗して、いちだんと積極的に商品の見直し に取り組んでいます。

 しかし、PBは出しっぱなしのままで、リニューアルの仕組みが欠けて、それがPBの弱点になっています。そこで、セブンプレミアムも次のステージにつなげるために、現在、約800品目の商品の見直しをかけています。

 09年7月に、実験的に「プレミアムライフ向上委員会」というコミュニティサイトを立ち上げ、消費者を組織化して会員の声をPBのリニューアルや 開発に生かしています。10月には本格的に始動し、約1000人の会員を集めました。カテゴリーごとに会員の声を分析して、実際に「マヨネーズの口が大き すぎて、お好み焼きなどに使いづらい」などという声から、商品を改善して売上増にも寄与しています。

 今後はPBも見直しを図っていかないと、売上が頭打ちになってしまうと思います。品質、容量、パッケージ、デザインなど、つねに改善していく必要があります。

PBは今が正念場

──最近では、多くのチェーンストアがPBを発売し、消費者もPBに一種の飽きを感じている部分もあるようです。

大高 確かに、PBに新鮮みを感じなくなっているようです。今は、NBメーカーも「PBは恐れるに足らず」と考えているところも多いのではないでしょうか。そういう意味では、今はPBにとって過渡期に位置づけられるし、正念場とも言えます。

 「SMはPBがすべて」のように考えているチェーンもあるようですが、私は決してそうは思いません。店全体で見たら、PBの構成比はせいぜい2割 程度です。お客さまのSMの来店動機は生鮮食品にあって、生鮮と顧客満足を実現するサービスや商品の源泉である人材が競合との差別化のカギです。PBだけ を売って、世界を制するということはありません。

 だから、当社では生鮮の品質や顧客満足の担い手である人材育成をいちだんと強化しています。来店していただいたお客さまに感謝の気持ちを持つこ と、陳列などの技術、そして発注から販売計画までの立案やデータ分析などができるマネジメント力、この3つを中・長期的に強化していく方針です。こうした 基本の徹底が重要です。人材育成の総和が企業の価値だと考えています。

──下期に入って、SMはどこも厳しい状況が続いていますが、御社の足元の状況はいかがですか?

大高 厳しいですね。とくに、東北ではここにきて1世帯当たりの収入が減っています。7月は賞与が下がって、収入が前年の17%も減りました。さらに、貯蓄は増 えているので可処分所得が約20%減っています。1品単価は96.7%とあまり落ちてはいませんし、買上点数もそれほど落ちていません。しかし、9~10 月になって客数が減りました。お客さまの買物のしかたが変わって、何を買うにもしっかりと見極めて節約しているように見えます。年末も厳しい状況になると 予想しています。

 しかし、こういうときこそ経営者は明るくしなければいけません。社員が未来に夢を持って志を強くして、こんな売場をつくろう、こんな店にしたいと 挑戦できる企業風土と仕組みをつくっていくことが大事です。社員には、現場にはまだ問題が山積して、やるべきことはたくさんあるのだから、地道に愚直に やっていこうと話しています。