効率改善どころかアパレル業界を死に追いやる! 「PLM」5つの致命的な誤解とは
誤解④PLMはMD精度を高めないし分析もできない
PLMベンダーの中には、PLMにはMDの分析ツールが入っており、需要予測までできるなど嘯くところもある。だが、PLMというのは、予算計画が商品計画に落ち、サンプル作成が終わり量産商品が確定した段階でBOM (Bill of material 部品分解のこと)をまわし、素材発注や付属発注をして終了だ。PLMがもっとも有効なのは、売上計画や利益計画、投入計画が瞬時に見える点。また、来るべきSDGs時代に、サプライチェーンのトレーサビリティをデータ化できる点にある。
それでは、なぜPLMベンダーはPLMを導入すればMD分析ができる、と嘘をいうのか。理由はシンプルで、彼らは実務をしたことがないからだ。MDというのは、初期計画を約30%程度たて、店頭での売れ行きをみて「初速」と呼ばれる売れ行きのスピードを見ながら、短納期で売れ筋を追加発注してゆく。52週で回すと、週指数、在庫週数、アイテム別初速など、PLMではまったく対応できない機能が必要となるが、そんなことも知らないのだ。つまり実務においては、この時点でPLMは関係なく、プロパー消化率や最終消化率などの過去実績を踏まえ、残在庫の換金を優先させて期末の余剰在庫を極力減らすことになることはいうまでもない。
私は、このモデルを、Excelを活用し、SPA向けや通販向けなどを作った。一つのファイルで20MBもするお化けのような計算式が組み込まれた代物だ。
PLMについている「MDダッシュボード」と呼ばれる機能は、こうしたデジタルツールが裏側で動き、そのデジタルツールをマネジメント向けに集約して一覧できるようにし、Excelに毛が生えたような機能がついただけだ。AI でも、予測が難しいMD計画を量産商品のBOMをするだけのPLMにできるはずがない。加えていうなら、3D CADについては、韓国のCLO(クロ・エンタープライズ)が産業界のデファクトとなっているが、このCLOと大手PLMは標準機能では結合できないことも付け加えておこう。
誤解⑤PLM同士を結合させるのは愚の骨頂
このようにカオス状態となったPLMは、一社ではどうしようもないということで、バリューチェーン同士、データ結合しようとする動きがある。しかし、クラウドというのは、URLにログインIDとPWがあれば、世界中のどこからでもPLMを操作することが可能だ。だから、何度も言うように、PLMはサプライチェーン上に一つあればよい。
アパレルももっている、商社ももっている、工場ももっている、だから全部繋げればよい、という発想だ。こんなことをすれば、同じPLMに同じデータが3つも入ることになり、海外のPLMベンダーに2倍も、3倍も課金されるだけだ。ここまでくると、もはやどうしようもない。構築したPLMは償却してもらい、違約金とともに特損計上し、最初から正しい業務分析、サプライチェーン、投資の分担とプロフィットシェアのルールを決め、大きな枠組みを再度やりなおすということ以外にリカバリーの方法はない。実際、某商社ではPLMの完全償却を決めた。
このように、産業全体の最適化を図るはずのPLMが、産業全体の流通コストを上げ、なんの意味もないPLMを3つも4つも導入し、売れない低コスパの商品を来たるべきZ世代(日本も海外も)に対して売りつけて自滅し、高笑いしているのはPLMベンダーだけという状況なのだ。さて、こうした状況の中、次週は「やってしまった」PLM導入をどのようにリカバリーするのかを提示したい。
河合拓氏の新刊、大好評発売中!「知らなきゃいけないアパレルの話」
アパレルはSDGsに殺される!なぜ多くのアパレルは青色吐息でユニクロだけが盤石の世界一であり続けるのか!?誰も書かなかった不都合な真実と逆転戦略を明かす、新時代の羅針盤!
プロフィール
河合 拓(経営コンサルタント)
ビジネスモデル改革、ブランド再生、DXなどから企業買収、
デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言
筆者へのコンタクト
https://takukawai.com/contact/
河合拓のアパレル改造論2022 の新着記事
-
2023/01/24
「大ディスカウント時代が到来」 この意味が分からないアパレルの未来は悲観的な理由 -
2023/01/17
H&MやZARA等が原価下回る価格で取引を強要 SDGs時代にこんなことが起こる必然の理由 -
2023/01/10
ビッグデータを制する企業が勝利する理由と、M&Aできない企業が淘汰される事情 -
2022/12/27
2023年のアパレル大予測 外資による買収加速・DX失敗・中国企業に完敗、が起こる理由 -
2022/12/20
中国企業傘下の仏メゾン「ランバン」米国で上場 いまや中国企業に追いつけない理由 -
2022/12/13
過去のヒットからAIが予測し売れる服を自動生成!?アパレル業界の課題とこれからとは
この連載の一覧はこちら [55記事]
関連記事ランキング
- 2024-12-10ワールドが三菱商事ファッション買収!進むアパレル垂直統合、2つの課題とは
- 2024-11-26イタリア繊維産業に学ぶ、高くても売れるビジネスの秘密とは 染めと売り方が段違い
- 2024-12-03ユニクロ柳井会長がウイグル綿花不使用発言に至った理由と影響、その複雑な背景とは
- 2021-11-23ついに最終章!ユニクロのプレミアムブランド「+J」とは結局何だったのか?
- 2024-09-17ゴールドウイン、脱ザ・ノース・フェイス依存めざす理由と新戦略の評価
- 2023-08-08EC時代にスクロールとベルーナだけ好調 生き残るカタログ通販、死ぬカタログ通販
- 2024-11-19ユニクロ、開始から7年で明らかになった有明プロジェクトのいまとすごい成果
- 2024-12-17あなたはいくつ備える?AI時代に生き残るビジネスパーソン3つの条件とは
- 2024-09-03アローズにビームス…セレクトショップの未来とめざすべき新ビジネスとは
- 2023-09-26無印良品の一部となる三菱商事ファッションとユニクロ:Cの成功が意味することとは