効率改善どころかアパレル業界を死に追いやる! 「PLM」5つの致命的な誤解とは

河合 拓
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誤解と真実②導入前のフィット&ギャップなければ、金をドブに捨てるだけ

CreativaImages/istock
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 私が驚いたのは、PLMベンダーの「アジャイル」という言葉に翻弄され、本来はマーチャンダイザー 20名を大部屋にあつめ、レベル1の業務フローの上段から一つずつ、フィット&ギャップといって、現業の業務に合わないオペレーションを、①パッケージの開発をするのか、②パッケージの標準機能を使いパッケージの外の運用で対応するのか、③パッケージの外の運用にRPA (ロボティクス:作業を自動化するツール)を導入し、パッケージを標準のまま使うのか、の 3つの選択肢から選び、業務担当者、パッケージベンダー、情報システム部を集め、一つずつ決めてゆくのだ。とくに、最も時間がかかるのは、商社や素材メーカーとの要件定義である。ダメなアパレルは、このフィット&ギャップを省略し、勝手にシステムをつくって、いきなり商社や工場に説明会を開き「このシステムにリアルタイムにデータをいれて欲しい」といって断られ、あたふたする。

  これは、笑いごとではない。先日、経済産業省と私が主宰する研究会のメンバーが話し合う機会があった。過去、私(河合)は、10年も前から日本とアジアの業務コードの標準化をやれ、と経済産業省に提言してきたのに、経産省は分科会という形でお茶を濁し、業務をしらない学者やコンサルを集めてフェードアウトしている。その結果、メンバーである某商社の社員が経産省に切実に訴えた内容によれば、その商社では全社員の7%が「キーパンチャー」(伝票をコンピュータで処理するために、データ入力する専任の人)として採用され、アパレルの身勝手なPLM導入によってその数は膨れ上がっているという。
 聞けば、PLMベンダーが、生産部などと一緒に勝手に開発を進め、「アジャイル」でシステムを作って請求書を渡して去って行くという。PLMベンダーからすれば、「さあ、我々の仕事は終わった。あなたたちは検収もしている」というわけだ。そして、動かないPLM3年間のミニマム費用を払い続けることになる。余談ながら、アパレル と同じPLMを、その商社も別途自前で導入している。

誤解と真実③PLMをいれても売上は一切上がらない

 PLM導入の目的は何かと尋ねると、「売上をあげることだ」と、述べる人間がいるのには驚きだ。なぜか、と訪ねると、PLMを導入すればリードタイムが短くなる。リードタイムが短くなれば欠品を埋められ売上が上がる、という理屈だ。
 だが、これは意味不明な論理である。

  聞けば、ベンダーからそのように説明されたということだが、今、日本市場のアパレルの海外生産比率は99%に迫り、リードタイムは中国で2-3ヶ月、バングラデッシュでは半年というのが一般的だ。その原因は、日本市場は縮小していることに加え、QR(クイックレスポンス)の名の下に小刻みに数百枚の発注をバラバラに行っているため、工場にとってうまみがないためだ。海外工場は「ジャパンパッシング」(日本無視)を行い、成長著しいアジア内陸向けの受注を優先、日本からの発注を後回しにしているのだ。だから、物理的にリードタイムが2ヶ月もかかったり、半年もかかることはない

  具体的には、欧米、内陸向けの空き時間に日本向けを埋め込むか、ラインを一本にして(通常は5-10本)細々と生産するかのいずれかだ。このように、リードタイムの長期化は、デジタル導入とは全く関係ない。私が、商社不要論から商社活用論に変化したのは、商社の中には工場のラインを買ったり、工場に出資して日本向けの仕事を優先しているところがあるからだ。

  よく考えて頂きたい、商品的中率には二つの大きな変数があり、それは「計画が正しいか」、「仮に正しければ、その通りに商品が納入されるか」である。全社は商品政策(MD)の領域でPLMとは関係なく、後者も成長著しいアジアの市場へ工場の戦略が変わっている話でPLMとは一切関係ない。だから、PLMが売上を上げるという理屈はおかしいのである。

 

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