人々を悩ませる「先入れ先出し」と「後入れ先出し」

千田 直哉 (株式会社ダイヤモンド・リテイルメディア編集局 局長)
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商業の世界で「後入れ先出し」と言えば、新鮮な商品から先に売り切ってしまうことを言う。たとえば、牛乳だ。むかし、食品スーパーの冷蔵棚に並べられていた牛乳は、早く売り切るために日付の古い商品を前面に出し、新しい商品は奥に置くという「先入れ先出し」が普通だった。けれども、このことを見越したお客は、冷蔵棚の一番奥に手を伸ばし、わざわざ商品をとるようになった。

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鈴木敏文氏が説いた「後入れ先出し」の重要性

 そんな状況に疑問を感じたセブン‐イレブン・ジャパン(東京都/永松文彦社長)の鈴木敏文社長(当時)が「後入れ先出し」の重要性を主張し、実践し始めてから、「先入れ先出し」は多くの食品スーパーから姿を消した。

 「後入れ先出し」は、牛乳の棚であれば、日付の古い在庫を奥に追いやり、新しく後から入れた商品を手前に置くという簡単なこと。お客は、常に一番新しい商品を手にすることができると同時に、店舗で働く従業員も複雑な品出し作業をする必要がなくなり、効率アップが図られるようになる。

 「後入れ先出し」は、お客のために貢献するのと同じように、自社のオペレーション効率も上げるという一石二鳥の効果を得ることができたのである。

 ただ最近は、さまざまな事情から「先入れ先出し」に戻ってしまっている企業も少なくない。とはいえ、「後入れ先出し」が小売業界に及ぼした衝撃は大きかった。

エレベーターの「後入れ先出し」問題

 すっかり、前置きが長くなってしまったが、話は極めて個人的な、メディカルモール内にあるエレベーターで起きたある出来事だ。

 過日、めざす3階の内科に向けて、エレベーターに乗り込むと、ドアが閉まる間際に、患者さんと思しき人が飛び込んできた。

 2人きりのエレベーター内。ドアに対して奥側に私(=先入れ)。手前には閉まり際に飛び込んできた人(=後入れ)――。

 3階でドアが開くと、彼も同じ内科の患者だったようで、先に降りて、さっさと受付をすませてしまった。

 実は、こうしたケースはよくあることで、良識ある人は、自分の立場を理解してちゃんと順番を譲ってくれるのであるが、たいていは“後入れ”の人が先に出てしまう。

 1人くらいならば、先に出てしまっても、仕方ないと諦めることもできるけれども、先頭に並んで待っていた人が降りる時には、10番目になってしまうような「革命」が起こるのでは、ちょっとつらい。

 最近では、入口と出口が異なる両面ドア型のエレベーターも散見できるようになってきたが、既設のインフラは旧態依然だ。

 ということで、エレベーターには「先入れ先出し」ができるような技術革新を要望したい。

記事執筆者

千田 直哉 / 株式会社ダイヤモンド・リテイルメディア 編集局 局長

東京都生まれ。1992年ダイヤモンド・フリードマン社(現:ダイヤモンド・リテイルメディア)入社。『チェーンストアエイジ』誌編集記者、『ゼネラルマーチャンダイザー』誌副編集長、『ダイヤモンド ホームセンター』誌編集長を経て、2008年、『チェーンストアエイジ』誌編集長就任。2015年、『ダイヤモンド・ドラッグストア』誌編集長(兼任)就任。2016年、編集局局長就任(現任)。現在に至る。
※2015年4月、『チェーンストアエイジ』誌は『ダイヤモンド・チェーンストア』誌に誌名を変更。

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