三越伊勢丹HDが「クイーンズ伊勢丹」を買い戻した理由

棚橋 慶次
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三越伊勢丹ホールディングス(東京都/細谷敏幸社長:以下、三越伊勢丹HD)は4月26日、高級食品スーパー「クイーンズ伊勢丹」を運営するエムアイフードスタイル(東京都/雨宮隆一社長)の株式66%を再取得、完全子会社化すると発表した。
およそ4年前の2018年4月、「クイーンズ伊勢丹」は三越伊勢丹HDから本体から切り離され、ファンドのもとで事業運営してきた。
本稿では、三越伊勢丹HDが「クイーンズ伊勢丹」を再取得した事情を掘り下げるながら、高級食品スーパーの今後について考えてみたい。

見え隠れする労組の存在

 2018年当時を振り返れば、本気度に疑問符がつく事業譲渡だった。

 当時は高級スーパー同士の競争が激しかった頃で、エムアイフードスタイルも出店拡大コストがかさみ5期連続の赤字を計上、2017年3月期の営業損失は11億円に達していた。

 一方の三越伊勢丹HDは、17年に社長に就任した杉江俊彦氏(現・事業会社三越伊勢丹の取締役会長)がすすめる構造改革路線のもと、社内の反発を受けながら不採算事業の撤退やコスト体質強化を推し進めていた。三越伊勢丹HDから見れば、赤字かつ傍流の食品スーパー事業は、当然のことながら改革の対象となった。

 17年10月、経営陣は「あえて外部の力を借りて、クイーンズ伊勢丹の赤字解消をめざす」という判断のもと、三菱商事系の投資ファンド、丸の内キャピタルにエムアイフードスタイルの株式を譲渡した。

 ただし譲渡割合は全株式の66%で、残りの34%は三越伊勢丹HDが持ち続け、引き続き運営に関与し続けた。加えて、三越伊勢丹HDサイドは「再建のめどが立てばあらゆる選択肢が考えられる」と、最初から買い戻しの可能性をほのめかしていた。

 なぜこのような中途半端な事業譲渡になったのか。そこには、労働組合の存在が見え隠れする。三越伊勢丹HDでは労組の影響力が強く、ときには経営方針にも口を挟むとも言われている。

 混乱の中で社長の椅子を引き継いだ杉江氏は「強引なコストカッター」としてメディアには取り上げられることが多いが、 就任時の会見では「不足していた社内での対話を重視」と組合への配慮をほのめかしている。

 当然、「クイーンズ伊勢丹」にも大勢の組合員が働いている。「いずれは三越伊勢丹グループに戻れる」というかたちにして反発をおさえる……社内事情と改革路線の折衷案が66%の事業譲渡だったというのは勘繰りすぎだろうか。

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