先週、「そごう・西武」の売却劇について私の分析を披露した。時を同じくして、3月11日、あのearth music&ecology(アースミュージック&エコロジー)を擁するストライプインターナショナル(岡山県)が、T-CAP (ティーキャピタルパートナーズ)の配下に下った。今回はストライプインターナショナルのつまずきの原因とこれかについて分析するとともに、いまアパレル企業がすべきことについて解説したい。
くどいようだが、私は昨年夏よりアパレル業界がやることはデジタル・トランスフォーメーション(DX)ではなくファイナンスであり、企業買収、買収防衛、資金調達に戦略の力点を置くよう説いてきた。今、自力でDXを推進できる企業は、財務的体力だけでいえばファーストリテイリング、良品計画、しまむらぐらいではないだろうか。
DXよりファイナンス–当時から、アパレル業界のマクロ状況を見れば、こうなることは明らかだった。
ストライプのファンド入りは単なる序章
T-CAPによるストライプインターナショナルの買収は単なる「序章」だ。今後、ファンドや商社、海外企業の「日本買い」は増えてゆくだろう。ひょっとしたら、「これは買うモノがない」と、「Japan passing」 (日本を避けて通る)し、外資による日本市場の攻勢にでる可能性もある。私の海外講演も数週間後に迫ったが、今は「What is to bet in Japan ?」 (日本で買えるものはなんだ?)が、外資投資銀行のキーワードだ。
日本のアパレルは30年前につくられた「グレイヘア・エコシステム」で、テコでも動かない産業だ。これは私の造語で、バブル時代に作られたアパレルの古くて非効率なビジネスモデルにいまでも固執し、当時活躍したいわゆる「おじさん」連中が業界を牛耳っている状態を指す。
産業政策も同様で、海外からの輸入品に対して、今でも10%近い税金をかけて日本市場を守っている。ファーストリテイリング、良品計画を除くアパレルはそうしたなかで、海外市場に打って出て行くこともせず、ただ「不況だ不況だ」と叫んでいるだけだ。
そうした企業では、数年で退職する50代が管理職だ。彼らの本音は「リスクはとりたくない、あと少し待てば逃げ切れる」というもので、大きな勝負を仕掛ける人は少ない。一方で、私が5月からはじめる研究所には、自分の会社の10年後のために何をすべきかという問題意識をもつアパレル企業や商社から若手の幹部候補が集まり、私も期待を寄せているところだ。
ストライプ、既存事業続々閉鎖のロジック
さて、いくら名医でも自分が病の不治に倒れれば、自分の腹を切って手術することはできない。これと同様に、日本企業は思い切ったビジネスモデル改革を拒みズルズルと時代に取り残された結果、突如現れたゲームチェンジャーや外資の前に自ら改革をする力も体力もなくなってしまった。だから、一見、荒療治ともいえるファンドに救済を求めるわけだ。
そこで今回のストライプインターナショナルに話を戻す。私から見て事業シナジーとしての意味が見えなかった渋谷の「ホテルコエトーキョー」は1月末で閉鎖され、ほとんど売上・利益ともに貢献していないのではないかと思われた「ストライプ・デパートメントストア」も2月末に閉鎖された。
仮に私の仮説が当たっているとすれば、こうした収益を生まない事業は、ファンドが買い取った後に閉鎖するパターンと、ファンドからこうした無意味な事業を自力で閉鎖することを前提に株式を引き受けるケースがあるが、今回は後者であった。
T-CAPは、元々東京海上キャピタルという名で、ファンド業務を行っており、バーニーズニューヨークやミキハウスなどを保有していた実績を持ち、私も過去何度かお付き合いした経験を持つ。いわゆるアパレル分野では素人ではないファンドだ。また、ストライプインターナショナルについても、私は詳しいことはわからないが、ここに至るまでの経緯を推測すると、時代の寵児といわれた石川康晴・元社長なくして、ストライプインターナショナルの躍進は語れない。
彼は、コンサルタントと見間違えるほどメディアに出演し、僭越ながら、私も日経MJの紙面でご一緒させていただいたこともある。人のことを言える立場ではないが、当時からメディアのインタビューに対し、「人とは感覚が違う、不思議なことを言うな」と感じていた。私は、彼の口から発せられる「思いつき」ともとれる未来感についていけなかった。だが実績を出していたので、メディア受けは良かった。
だが、さすがに、渋谷のホテル事業には疑問だったし、ストライプデパートメントについても、ZOZOXIT (百貨店アパレルなど高額アパレルがZOZOからでてゆく造語)の先鞭をきったまでは良かったが、事業としては難しいと思っていた。そもそも、百貨店アパレルが独立して客を呼べる力があるとは思えず、ましてや、earth music&ecologyなどのキラーブランドもすでにピークアウトを迎えていたように感じていたからだ。「これはCPA(顧客獲得単価)がおもいきり嵩むだろうな」と余計な心配をしていた。
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ストライプの弱みと強み、これからの立て直し戦略とは
ストライプインターナショナルは、岡山からでてきたアパレルで、こうした石川元社長のスタンド・プレイでメディアを賑わし、幹部全員にMBA取得を義務づけるなど当時の話題を次々とさらっていった。しかし、earth music & ecologyの大胆なTV CMで一時的な認知を広めたが、所詮は、移り気な若年層向けビジネスだ。同社が主戦場とするショッピングセンター(SC)向けアパレルビジネスは、「低コスト x オペレーション勝負」になるということを理解していなかったように見える。このセグメントにLTV(顧客生涯価値)を期待するのは的外れだというのが、私の見解だ。ただ、客が求めるデザインと価格のものを切らさず店頭にだしてゆける企業が勝つということだ。
競合はずばりg.u. やファストファッションと真っ向勝負。一時的なブームに乗ればよいが、ブランド(SCという構造的に)は顧客を掴むほどのパワーは無く、全員が全速力で走っていれば勝てるが、息切れすれば業績は落ちるという、短距離走の繰り返しのようなビジネスである。自らの「ブランド」に余計な期待をせず、オペレーションに徹することができるかが肝要なのだ。また、当時の仕入先は財閥系商社がメーンだったと記憶しているが、ご存じの通り、今、商社OEMは矢継ぎ早に撤退の方向で動きだしている。今後を見据えて戦うのであれば、商社に頼らない直貿(直接貿易)は必至となるだろうが、同社は「製品買い」がメーンで、しっかり自社の魂を込めた商品をリスクを取って開発していくことには不慣れだという印象を持っている。商社などに逃げられたとき、そこをいかに補完するかも改革の論点になるだろう。
そこで改革のポイントは、思い切った店舗網の縮小とデジタル時代を踏まえたDX、および、私がいうTokyo city showroom戦略による海外進出になるだろうと思う。
以上、私が言う「春から夏にかけて、日本のアパレル大波乱劇」の序章が始まりつつある。アパレル企業は、「我が社の文化は」などといっている場合でない。これからは、いつあなたの会社にプロ経営者が乗り込んできてもおかしくはない。
「あ、うん」の呼吸で何でも言うことを聞いてくれた商社におんぶにだっこし、突如吹いた「ブーム」という名の神風にのって空中遊泳してきた方達は、資本の論理、科学的経営という聞けば当たり前の手法に出くわし四苦八苦しないよう、今から準備をしておくべきだ。
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プロフィール
河合 拓(経営コンサルタント)
デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言
筆者へのコンタクト
https://takukawai.com/contact/