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「フード&ドラッグ」の最終形態へ?クスリのアオキの戦略、強み、新フォーマットを徹底解説!

アオキ大

食品小売の警戒度は日々上昇

 「また近くに店を出されて……」「隣に店ができたらはっきり言って邪魔だなと思いますよ」「指をくわえて眺めているわけにはいかないよね」

 ここ最近、とくに地方の食品スーパー(SM)を取材していると、必ずといっていいほどある企業について話題に上るようになった。北陸・石川県を本拠に、現在は関西から東北にかけての広い範囲でドラッグストア(DgS)を展開するクスリのアオキホールディングス(青木宏憲社長:以降、特集内では原則としてクスリのアオキと表記)のことである。

 同社が昨今、食品小売業から注目、あるいは警戒されている理由としては大きく3つ挙げられる。まず、一部の大型店で生鮮をフルラインで扱い、“ほとんどSM”と言っても過言ではないくらいの食品の品揃えで集客を図っている点。もう1つは、高速出店による店舗網の拡大によって“気づけばクスリのアオキに囲まれている”というケースが徐々に増えている点である。そして最後に、生鮮の強化と店舗網拡大(出店用地の確保)を図るために、地場SMを次々と買収している点である(図表)。

 もっとも、食品強化の姿勢を打ち出すDgSは今や珍しい存在ではない。クスリのアオキのほかにも、フード&ドラッグのパイオニアであるコスモス薬品(福岡県/横山英昭社長)、同じ北陸を地盤とし、生鮮のプロセスセンターまで自社で運営するGenky DrugStores(福井県/藤永賢一社長)などが代表的存在だろう。そして最近ではウエルシアホールディングス(東京都/松本忠久社長)、ツルハホールディングス(北海道/鶴羽順社長)、中部薬品(岐阜県/高巢基彦社長)といった大手DgSでも、生鮮を含む食品の取り扱いを拡大する動きが活発化している。

 小誌『ダイヤモンド・チェーンストア』でもここ数年、こうした食品強化型DgSの動きをレポートや特集で幾度となくお伝えしてきた。そうしたなかで今回、クスリのアオキ一社にフォーカスを当てるのは、前述のとおり食品小売業界からの注目度がとくに高いこと、そしてクスリのアオキが“新たなステージ”へと移行すべく、そのビジネスモデルや店づくり、商品政策(MD)を日々進化させているためである。

新中計が体現する「変化」の道筋

 クスリのアオキの「変化」を鮮明に表しているのが、同社が2021年7月に発表した第3次中期経営計画(22年5月期~26年5 月期)「ビジョン2026」である。この新中計では、26年5月期までに売上高5000億円をめざすという壮大な目標を設定。その達成のための重点施策として掲げたのが、①「フード&ドラッグ」への転換を目的とした主力フォーマットの変更、②調剤併設率向上、③ドミナント強化の3つであり、これこそがクスリのアオキの将来に向けた“進化”の方向性を示したものだ。

 まず①については、それまで標準フォーマットであった300坪型と、生鮮のコンセッショナリー(コンセ)を導入した大型の450坪型(同社では「次世代型」とも呼称)の中間に当たる400坪型を新たに開発。その背景には、300坪では同業との大きな差別化が難しく、450坪型は集客力・競争力の高さはあるが大量出店が難しいという課題がある。そこで、生鮮を含むクスリのアオキならではの品揃えは維持しつつ、出店スピードが維持できる400坪を新たな標準フォーマットとし、今後は新規出店の約50%が同フォーマットになるという。

 ②の調剤併設率については、すでに有力DgSの中では3位にあたる現状の6割弱から、26年5月期までに70%まで引き上げることを目標に設定。それに先立って薬剤師の新卒採用を強化しており、既存店への新設を含め、調剤薬局の新規開局を進めていく。クスリのアオキとしてはこれによって、調剤に強い競合DgSからのシェア奪取、そして食品+DgS商材+調剤薬局という圧倒的な競争力を持つフォーマットの構築をねらう。

 そして③については、これまで進めてきた「エリア拡大」から「ドミナント強化」へと出店方針を転換。すでに進出している地域でのシェア拡大を図るべく、従来(1万人)よりも少ない5000人の商圏人口で成立する店舗の出店を加速していく。その主軸となるのが、前出の400坪タイプの新・標準フォーマットである。

PB投入、店舗間供給……店舗で見える「変化」

 「変化」はこれだけではない。クスリのアオキは21年8月から、自社のプライベートブランド(PB)「A&(エーアンド)」を投入。食品をメーンに本稿執筆時点で約50SKUを展開している。

 コスモス薬品やゲンキーといった競合が価格競争力の高いPBを武器に集客を図ってきたのに対し、クスリのアオキはそれまでPBを持っていなかった。そのため価格面で特筆すべきポイントはそれほどなく、本特集に際して行った利用者への調査でも、「価格の安さ」を来店動機・理由として挙げる声は少なかった。言い方を変えれば、生鮮を含む食品と、医薬品や生活用品といったDgS商材をワンストップで買えるという利便性が、価格面でのハンデを補って余りあるものだったのかもしれない。

 しかし、コロナ禍での景況感の悪化や所得の低迷、原材料の高騰といった社会環境の変化のなかで、消費者の価格に対する感度はさらに上昇。そうしたなかでクスリのアオキとしても価格施策のテコ入れを急務と感じたのだろう。折しも20年5月期に売上高が3000億円の大台に乗ったこともあり、PB投入を決断したとみられる。

 そしてもう1つ、クスリのアオキの強力な武器である生鮮の扱い方についても、少なからず変化が見られる。前出の400坪型では基本的に青果と精肉は扱うとしているが、同タイプの店舗を訪問したところ、店内に加工・調理スペースはなく、近隣の生鮮フルライン型店舗のコンセから供給を受けていた。ウェブサイト上の店舗情報では取扱商品として記載されていない総菜や鮮魚(塩干)も、品揃えこそ絞り込んでいるが販売していた。つまり生鮮フルライン型店舗を“ハブ”として、400坪、あるいは300坪タイプの店舗でも生鮮の扱いを増やしていくとみられるのだ。

アオキ対策としてSMがとるべき戦術

 400坪という新フォーマットを主軸としたドミナント出店、PB投入による価格競争力の向上、そして店舗間供給による生鮮の取扱店舗の拡充──。これらがスムーズに進展した暁には、とくにドミナント戦略によって囲い込まれたSMが受ける影響は計り知れないものがある。逆に言えば、これを実現できるかがクスリのアオキにとっての大きな課題でもある。

 では、SMはどのようにして強大化するクスリのアオキに立ち向かえばよいのだろうか。1つのヒントを得たのが、埼玉県上里町で行ったエリア調査である。同エリアではクスリのアオキに近接して、「ヤオコー」「ベルク」「とりせん」「トライアル」などが出店。この顔ぶれからして、“仁義なき戦い”が展開しているかと思いきや、さにあらず。いずれの店舗も多くのお客で賑わっていた。

 その理由は、各店舗が自社の強みを前面に出した店づくりを行っているためだ。緻密かつ高質なMDを武器とする「ヤオコー」、徹底した店舗標準化と販売力の高さで知られる「ベルク」、典型的な地域密着型SMである「とりせん」、スーパーセンターならではの圧倒的な品揃えと価格でお客を引き付ける「トライアル」……。いずれも目先の競合対策に追われるのではなく、自社の強みを明確にしてそれを売場で表現することに長けている。それが結果としてクスリのアオキを含む競合との差別化につながり、顧客が定着しているのだ。

 ただ、視点を変えれば、これら“強豪”に囲まれても揺るがないクスリのアオキの総合力の高さも際立つ。つまり前出のSMのように他社に負けない「明確な強さ」を打ち出せていない、あるいは認識できていないSMは、クスリのアオキにとって恰好の“M&A案件”になるだろう。

 クスリのアオキが今後も各エリアで存在感を大きくすることは確かだ。そこで生き残るためには、クスリのアオキの強さ、考えていることを理解したうえで、それに対する自社の強みをどこに見出し、店・売場・MDで表現できるかにかかっている。そのための虎の巻として、本特集を活用していただければ幸いだ。

クスリのアオキホールディングス会社概要

所在地 石川県白山市横江町4街区1
創業 1869年7月(設立1999年7月)
代表者 青木宏憲
売上高 3058億円(2021年5月期)
店舗数 794店舗(2022年1月20日時点:調剤薬局の単独店含む)

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