焦点:GDPコロナ前回復へ試練、不透明な宣言解除 原油高が家計直撃も
[東京 16日 ロイター] – 国内総生産(GDP)は2021年4―6月期に実質プラス成長を回復した。ただ、過半を占める個人消費は伸び悩み、消費拡大のカギを握る6都府県の緊急事態宣言を8月末に解除できるかも不透明感が漂う。世界的な原油高が家計を直撃する新たなリスクも懸念され、政府の筋書きに沿って年内にコロナ前の経済規模に戻せるかは見通せない。
内閣府が16日発表した4―6月期実質GDP速報値は前期比0.3%増(年率1.3%増)と、2四半期ぶりのプラス成長となった。このうち企業の設備投資が前期比1.7%増と、プラス幅は1―3月期の1.3%減を上回って推移した。
新型コロナの影響で投資を見送る動きが広がり、20年度の設備投資実績は9年ぶりのマイナスとなっていた。日本政策投資銀行が実施した調査によると、21年度の設備投資計画(全産業)は前年比12.6%増で、実現すればコロナ前の18年度以来の高い伸びとなる。
政投銀の調査では、全産業のうち製造業が設備投資を18.6%増やす計画となっている。今年度に先送りされた投資に加え、脱炭素やデジタル化を見据えた動きも予想され、政府内には「設備投資は当面、堅調な状況が続く」(内閣府幹部)との声がある。
宣言拡大なら消費2兆円下押し
もっとも新型コロナ感染が危機的状況になる中で、GDPの半分以上を占める個人消費の見通しは明るくない。緊急事態宣言に伴う外出自粛でサービス消費は引き続き厳しい。この日発表された4―6月期の個人消費は前期比0.8%増となったが、1―3月の1.0%減を補いきれていない。
新型コロナの新規感染者数は13日に全国で初めて2万人を超え、1日の発表としては過去最多となった。31日に期限を迎える6都府県の緊急事態宣言や、13道府県に適用している「まん延防止等重点措置」を予定通り解除できなければ、消費の新たな下押し圧力となる。
みずほ証券の小林俊介チーフエコノミストは、6都府県に出されている緊急事態宣言が1カ月延長されれば「消費が8000億円程度下押しされる」と試算する。
緊急事態宣言を全国に拡大した場合はより深刻で「全国に拡大して1カ月延長となった場合、消費の下押しは2兆円まで膨らむ」と、みずほ証券の小林氏は言う。
原油高で家計負担2万円増の試算
専門家の間では原油高への懸念も指摘されている。コロナ後の20年4月に代表的なWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)は史上初のマイナス37ドルとなったが、経済活動の再開とともに、足元では高止まり傾向にある。
日本総合研究所の松田健太郎・副主任研究員は、石油輸出国機構(OPEC)とロシアなどの非加盟産油国からなる「OPECプラス」が協調減産の枠組みを維持し、需要超過となる現状に「下値を試す展開になりにくい」と指摘する。
WTI原油先物は21年6月に1バレル=70ドルを突破し、市場では先高観もくすぶる。「原油高によるコスト増加分を商品価格に転嫁できなければ国内企業の負担が増す。家計を圧迫し、購買力低下につながる可能性もある」と、日本総研の松田氏は言う。
第一生命経済研究所の永浜利広・首席エコノミストは、アジア市場の指標となる中東産ドバイ原油価格が年後半に平均70ドルで推移すれば21年後半から1年間の家計負担が2万3000円、平均80ドルなら2万8000円増えるとし、原油高が今後も続けば「経済全体にも無視できない悪影響を及ぼす」とみている。