長野発、食のSPA企業サンクゼールがECプラットフォーム事業に着手した理由
海外での卸事業が好調
これまであまりその地方で食べていなかったものを全国的に展開することで成功した例もある。山田氏によると、たとえばわかめの産地は宮城県や岩手県などの東北地方が有名だが、今は収穫量が減少し貴重になっているという。そこで目を付けたのが消費量が比較的少なく、天然のわかめがたくさん獲れる島根県だ。「地元であまり食べられていなくても販売を全国に拡大することでロットが増え、収穫する漁師にも安定的に仕事を提供できるというメリットがある」(山田氏)とのことだ。
そのほか、サンクゼールは日本だけでなく、現地で自ら新鮮で品質の高い原材料を仕入れて加工できるといったメリットから、アメリカのオレゴン州にも自社工場を保有している。ベリー系のフルーツを加工したジャムなどを中心に製造しており、日本での展開はもちろん、現地のスーパーマーケット(SM)などにも商品を卸している。柚子を使った商品など、アメリカで取り扱いが少ない商品などが好調だ。
海外での卸事業は単独で黒字化を達成しており、今後もさらなる事業拡大をめざす。台湾や香港の小売店からも引き合いがあり、アジアでの展開も行っていく考えだ。今のところ海外で実店舗を出店する予定はなく、まずは卸事業でさらなる利益確保をねらう。
ECプラットフォーム事業を開始
前回の記事で述べたように、サンクゼールはコロナ禍を機に出店を郊外や地方都市にシフトさせているが、それと同時に力を注いでいるのがEC事業だ。同社はもともと20年ほど前から自社ECを展開しているが、コロナ禍の20年4~5月では売上が前年同期と比べて500%ほど伸長するという驚異の成長をみせた。対応キャパシティを超えるほどの注文があったため、倉庫の改装などを実施したことで出荷スピードの向上に取り組んだという。現在は昨対で約200%増の売上で推移している。
さらに20年10月には、自社ECとは別にプラットフォーム事業にも参入。「旅する久世福e商店(通称:たびふく)」と題したモール型のECプラットフォームの運営を開始した。リアル店舗で取り扱う商品を調達するときと同じくバイヤーが直接現地に赴き、実際に話を聞いた生産者が出店しているのが特徴だ。もともと21年4月ごろをめどに開始する予定だったが、コロナ禍で飲食店向けに食品を卸していた生産者が困っているという声を聞き、開始を早めた。
同事業開始の理由の1つは、リアル店舗で不足していた部分を補えるからだ。リアル店舗では日持ちがしない生鮮食品をあまり取り扱えなかったが、モール型の「旅する久世福e商店」では生産者がお客に商品を直送できるというメリットがある。魚関連の商品の出品が多く、全体の約3分の1を占めている。
現在は約150の企業や生産者が出店しており、計3000アイテムほどを取り扱っている。今後も出店者・商品を拡大していく考えで、現在の出店者のほかに約100社が出店の意思を示しているという。各出店者のページ制作はサンクゼールが行っており、順次ページを開設していく計画だ。また、地方自治体などからも地元の生産者向けの説明会を開いてほしいという依頼もあり、今後は月10~20社を目標に出店者の数を増やしていく。