コスト重視からSDGsへ大転換 ファストファッションブランドによるサステナブル化の実情
H&M、ZARA、ユニクロがコスト重視からSDGsへ大転換
積極的な情報開示によって消費者からの支持を得るD2C(Direct To Consumer)ブランドと同じく、ファストファッションブランドもまた新たなビジネスモデルを打ち出しています。しかし、その努力はまっすぐ消費者に届いているのでしょうか。H&M、ZARA、そしてユニクロの活動を紹介しながら、その課題と対策を考えます。
ファストファッションの問題を露呈させたバングラデシュでの建物崩壊事故
過剰在庫、大量廃棄、賃金の低い発展途上国での製造――。ファストファッションブランドがこれら特有のビジネスモデルからサステナブルに大きく転換するきっかけになったのが、2013年にバングラデシュで起きた商業ビルの崩落事故です。これは、建物倒壊の危険が問題視されながらも対処せずにいた結果、ビル内の縫製工場で働く若い女性ら1000人以上が犠牲になったというもので、ラナプラザの悲劇として知られています。さらに、15年にファストファッションの製造工程をつまびらかにした映画『ザ・トゥルー・コスト』が注目を集めたこともまた契機になりました。
以来、アパレル業界、とくにファストファッションブランドにおいては、どういう環境で、誰がつくっているのか、その透明性が重要視されるようになったのです。
コスト重視から環境重視、透明性重視に
さて、こうした潮流の中で、各ブランドは具体的にどう変わったのでしょう。
まず、H&Mは、30年までに100%リサイクル製品またはその他の持続可能な原料を使用すること、40年までにバリューチェーン全体を通じて「クライメット・ポジティブ」をめざすことを発表しています。クライメット・ポジティブとは、「環境に貢献する取り組み」のこと。たとえばH&Mは、藻が原料のソールを使ったサンダルを昨年から発売していますが、その製造工程では一足あたり112.5リットルの水を浄化できるそうです。要は、水をきれいにしながらサンダルをつくっているというわけです。
このほかAIの活用によるサプライチェーンの見直し、製造を担うバングラデシュの労働者に対し、現地の最低賃金を50%上回る給与の支給、96%の店舗でグリーンエネルギーを使うなど、さまざまな施策にH&Mは取り組んでいます。
こうした姿勢を消費者にわかりやすく伝えるために展開しているのが、サステナブル素材を使った商品コレクションです。そのため、パイナップルの葉を使った合皮、オレンジの搾りかすを使った繊維など、先述の藻も含め天然素材の研究開発にも熱心なのです。いずれもH&Mという企業の方向性を明確に指し示したものですが、一方で、下請け工場に開発や製造面で無理を強いていたり、労働環境にまだまだ改善の余地があったりと課題は多く、消費者から「グリーンウォッシュ」(環境に配慮しているように見せかけること)と揶揄されるなど、確かな信頼を得るには至っていないのが現状です。