焦点:米追加経済対策、欧州にとって大きな恩恵 ユーロ安進展も

ロイター
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独フランクフルトの金融街
3月16日、欧州にとって、米国のバイデン政権が打ち出した1兆9000億ドルの追加経済対策は結局のところ、金融市場の動揺というマイナス効果よりもプラスの効果がずっと大きいはずだ。写真は独フランクフルトの金融街。2019年3月撮影(2021年 ロイター/Ralph Orlowski)

[フランクフルト 16日 ロイター] – 欧州にとって、米国のバイデン政権が打ち出した1兆9000億ドルの追加経済対策は結局のところ、金融市場の動揺というマイナス効果よりもプラスの効果がずっと大きいはずだ。足元で市場が不安定化し、欧州中央銀行(ECB)が緩和強化に動いたが、それも全体的に見れば、ささいな出来事だろう。

米国の今年の成長率は経済対策によって6.5%まで加速する見通し。これが対米貿易という形で、来年のかなりの期間まで欧州に恩恵をもたらしてくれるのは間違いない。

ただ、大きな前提条件がある。欧州が新型コロナウイルスのワクチン接種を迅速化し、パンデミックを抑え込むとともに、自ら策定した財政刺激策の実行を急ぐということだ。

今のところ欧州の景気回復は米国に後れを取っており、今週には域内主要国がアストラゼネカのワクチンの使用を安全性への懸念から中断。市民のワクチン忌避に拍車が掛かりかねず、ロックダウン(封鎖措置)期間が長期化する恐れも出てきている。

時間差で効果

投資家の立場では、どうしても最近の債券市場の混乱に目を奪われてしまう。米経済見通しの改善を受け、欧米双方の借り入れコストが上昇した。これは、ほとんどの地域でロックダウンを解除していないユーロ圏の景気回復を失速させかねない。

このためECBは先週、債券買い入れペースの加速を表明した上で、加盟各国政府に財政出動を急ぐよう迫った。中でも念頭に置かれているのは、資金支出が待機中になっている欧州連合(EU)の7500億ユーロに上る「復興基金」だ。

それでも、こうしたECBの努力は無駄にはならないはずだ。時間がたつにつれてECBの苦労は減ってくる可能性がある。米経済の成長スピードが速まれば、欧州製品の輸入増につながる。ドルには上昇圧力がかかるかもしれないし、これがユーロ安という形で事実上、ユーロ圏での金融緩和効果を強める方向に作用し、物価も押し上げ、輸出競争力も高めてくれる。

米経済のファンダメンタルズが強まれば、欧米の借り入れコストの差を広げ、ユーロを押し下げるだけでなく、コモディティ価格をユーロ建てで上昇させ、ECBが長らく求めてきたインフレ率の再上昇に役立つはずだ。

ユーロ安期待

EUの輸出総額は域内総生産(GDP)の約2割に相当し、昨年に貿易活動が大幅に落ち込んだ後でさえ、対米黒字額は1500億ユーロに達した。そこに登場したバイデン政権の経済対策は、追い風となる以外に考えられない。

バークレイズのエコノミスト、クリスチャン・ケラー氏は、米経済対策がEUのGDPを0.3ポイント前後、より楽観的に予想すれば0.5ポイント押し上げるとみている。

今年はユーロが相対的に強くなり、欧州経済成長の足を引っ張ると想定されていたが、新たな現実はこれを180度ひっくり返す可能性がある。ウニクレディトのエコノミスト、エリック・ニールセン氏は「今の状況で、ユーロが値上がりすると予想するのは非常に難しい」と述べた。

ニールセン氏の見立てでは、これからの3カ月前後で米国経済は本格的に上向く一方、欧州はまだワクチンの普及が進んでいない状況になる。ユーロ/ドルは1.15-1.16ドルで推移する可能性があるという。

現在のユーロ/ドルは1.19ドル前後。年初時点の1.23ドル強からはユーロは軟化したものの、パンデミック前に比べるとなお10%高い。

ユーロ安が進めば、米国の債券利回り上昇がユーロ圏の債券利回りに及ぼす影響も相殺してくれてもおかしくない。

物価目標達成にも光明

ECBは過去10年間、経済にとって健全と見なす物価上昇率の目標を達成できず、今や信認が問われている。それだけに米経済成長加速に伴う世界的な物価高は「救いの神」になり得る。

コモディティ価格は世界的な成長持ち直しの観測を受け、年初来で16%上がり、2年半ぶりの高水準で推移している。

ECBはこうした循環的な上昇を無視する傾向があるとはいえ、コモディティー高が持続すれば最終的に基調的な物価に波及し、ユーロ圏の物価上昇率をECBの2%弱目標に向けて押し上げてくれるだろう。

パンデミック制御が最優先

欧州がそうした恩恵を享受するにはまず、パンデミックを制御しなければならない。ロックダウンは経済を窒息させ、いかなる刺激策もその効果を薄れさせてしまうからだ。

カリフォルニア大学バークレー校のアラン・アウアーバッハ教授(経済学)は「欧州経済の成長の鈍さがパンデミックをコントロールできていないことに起因するなら、昨年米国で起きたのと同様の事態が十分に起こり得る。当時は、財政刺激策を打ち出しても貯蓄に回るだけで、需要を喚起しなかった」と述べた。

一方で今後、欧州の景気回復がようやく本格化し始めるまさにそのタイミングで、米経済が過熱化しているという展開も現実的なリスクの1つだ。

米国では過去1年間で、合計すると年間GDPの25%前後に相当する規模のさまざまな対策が実施された。だから米経済活動が完全に再開されれば、過剰な現金と、積み上がった貯蓄が成長率をあまりに高め、米連邦準備理事会(FRB)が早急な利上げを強いられるかもしれない。

もっともそうした現象も、ユーロ圏にとってはさらにユーロ安が進行し、輸出が拡大するという面では、一筋の明るい光になる。アウアーバッハ氏は「米経済の過熱化が現実化すれば、米国にとってはインフレやあらゆる面で政策上好ましくないだろうが、欧州にとっては、(経済の強さが)波及するという意味で非常に好都合なはずだ」と指摘した。

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