ヤオコー、サミット…2019年3月期中間決算の主要食品スーパー売上高・業績レポート
食品スーパーの業績(営業収益・営業利益・売上高)を比較。好調続くヤオコー&サミットで効率化を図る動きが加速
3月期決算の食品スーパー(SM)の中間業績が発表された。ヤオコー(埼玉県/川野澄人社長)、サミット(東京都/竹野浩樹社長)、バローホールディングス(岐阜県/田代正美会長兼社長:以下、バローHD)、いなげや(東京都/成瀬直人社長)の中間決算をレポートする。
ヤオコーの営業収益は5.9%増・既存店売上高は2.8%増~既存店が好調に推移し人件費上昇をカバー
ヤオコーの19年3月期の中間決算(連結ベース)は、営業収益が対前年同期比5.9%増の2158億円、営業利益が同7.9%増の108億円で増収増益となった。営業利益は、上期だけで比較すると2期連続で最高益を更新。既存店売上高も同2.8%増と好調だった。
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同社の川野社長は、「とくに既存店売上高が前年同期から大きく伸びたことで、人件費や減価償却費の増加分を相対的にカバーすることができた」と振り返る。
商品面では、かねてから力を注いできた野菜が相場高の影響もあって売上を伸ばした。「出し切り」「売り切り」の取り組みを徹底したことで以前に増して鮮度レベルが向上し、今年4月以降、野菜の既存店売上高は対前年同月比プラスで推移している。とくに8月と9月はそれぞれ同8.6%増、同9.2%増と飛躍的な伸びを示した。
また、プライベートブランド(PB)については、主力の「Yes!Yaoko」を中心に計1240品目まで品揃えを拡充しており、売上高構成比も10%を超え、全体の収益に大きく寄与している。
運営面では生産性向上に向けた取り組みを進化させている。なかでも、14年に開設した自社のデリカ・生鮮センターの活用が進んでおり、上期中の同センターからの出荷金額は同43.0%増の42億円に上っている。また、セルフ精算型のレジについては全体の約52%にあたる77店に導入しており、今期中に92店舗まで設置店舗を増やす計画だ。
川野社長は「生鮮3部門とデリカについては人件費率がとくに高いが、デリカ・生鮮センターを活用することでその比率は下げられるし、(センターでの生産体制をより強化することで)売上も上げられる」とみている。
業績面では絶好調のヤオコーだが、懸念材料もある。なかでも川野社長が「気にしている」とコメントしたのが、上期の既存店客数が同0.8%減となった点についてだ。その要因は、ヤオコーが「ヤングファミリー」と定義する49歳以下の年齢層の顧客の来店頻度が減少しているため。「(食品の取り扱いを強化している)ドラッグストアで買物するなど、買い回りの傾向が強くなっている」と川野社長は分析し、対応を急ぐ。
なお、19年3月期通期の業績については、営業収益が対前期比3.6%増の4300億円、営業利益は同1.9%増の173億円を見込んでいる。
サミットの営業収益は2.7%増・既存店売上高は3.3%増~総菜強化で既存店が好調に推移。デジタル活用の新プロジェクト始動!
サミットの19年3月期中間決算(連結ベース)は、営業収益が同2.7%増の1463億円、営業利益は同1.2%減の38億円の増収営業減益。なお経常利益は同9.8%増の40億円となり、売上高とともに過去最高を記録した。
また、既存店売上高は同3.3%増で、直近の3年間で約10%伸長している計算だ。また、客数と客単価はいずれも同1.7%増と好調に推移している。
サミットは昨年度より、部門間で連携しながら総菜強化に取り組む「大総菜プロジェクト」に着手。生鮮素材を使ったカットサラダやカットフルーツ、煮魚、焼き魚など、部門を超えた商品開発を進めている。総菜以外の食品については地域別の商品政策(MD)を導入し、売上に寄与している。
部門別の売上高は、青果が同4.2%増、鮮魚が同2.2%増、精肉は同2.9%増、総菜が同4.8%増となり、大総菜プロジェクトが一定の成果を上げているようだ。
サミットの竹野社長は下期の重点施策として、生鮮のPCを川崎市内に設置することを挙げた。「今年12月からテスト稼働を開始し、来年1月後半から本格稼働する。1年後には5万パックを目標にして全店で数量拡大する」とした。
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出店戦略については、下期中に東京都内で2店舗の新規出店(「三田店」「鍋屋横丁店」)を行うのに加え、大型改装を3~4店で実施する計画だ。
さらに下期には、「サミット・デジタル・トランスフォーメーション(略称:SDX)」のプロジェクトを設立。「キャッシュレス、省人化、次世代EC、スマホ世代へのマーケティングをいかに推進するか向き合っていく」と竹野社長は説明する。関連して、サミットがデジタル活用の「プラットフォーム」として10月にリリースしたスマホアプリ「サミットアプリ」については、11月までの約1カ月間にダウンロード数が12万件に上ったことも明らかにした。
通期業績予想は、営業収益が同3.0%増の2960億円、営業利益が同1.6%増の73億円を見込む。
バローHDの営業収益は3.4%増・営業利益は11.8%増~SMの商圏拡大を図り業態間競争に対応
バローHDの第2四半期連結決算は、営業収益が対前年同期比3.4%増の2796億円、営業利益が同11.8%増の75億円で増収増益だった。ドラッグストア(DgS)事業の伸びが全体の売上を押し上げた格好だ。
主力のSM事業も、営業収益が同1.6%増の1744億円、セグメント利益は同23.7%増の48億円と堅調だった。田代会長は「SMの新店をつくると、(同じ商圏内に)数年のうちにDgSが7~8店、コンビニエンスストア(CVS)が12~13店は出店する。DgSやCVSの商圏は2km程度が限界だろう。しかし、タチヤ(グループ傘下の生鮮強化型SM)は商品力の強さが顧客を呼び、商圏を広げ、売上高を伸ばしている。SMが生き残る道は商圏を広げることにあり、小さくしてはいけない」との見解を表明し、商圏を拡大することでシェアアップを図ることの重要性を強調した。
なおSM事業以外では、DgS事業の営業収益が同8.4%増の630億円、セグメント利益は同18.3%増の16億円と絶好調だった。これについて田代会長は、「生鮮食品の導入効果が出ている。ただ、DgSとしての独自性も必要だ。健康と美しさを掘り下げたDgSに変えていきたい」とコメント。食品強化に邁進するのではなく、新たなビジネスモデルを探る考えを示した。ホームセンター事業は、営業収益が同2.0%増の277億円、セグメント利益は同14.1%増の15億円。建築資材や工具などが伸長した。
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ローカルで生き残るために「ハイブリッド型チェーンストア」を志向する(会長兼社長 田代正美)
バローHDは18年3月期の通期業績予想について、営業収益5600億円(同2.9%増)、営業利益148億円(同9.9%増)を見込む。
いなげやの営業収益は0.6%減~1億円の営業損失を計上・パート比率向上を推進
いなげやの19年3月期中間決算(連結ベース)は、営業収益が同0.6%減の1264億円、営業利益は1億円の赤字を計上する厳しい結果となった。「ウェルパーク」の屋号で展開するDgS事業は堅調に推移したものの、主力のSM事業が苦戦した。その背景についていなげやの成瀬社長は、「人件費の上昇圧力が収益に影響した」と話す。
こうした状況下でいなげやは、新たな社内プロジェクトを発足させ、店舗オペレーションの見直しに乗り出す方針を明らかにした。「やめる、減らす、見直す」をスローガンに各業務プロセスの再構築を行い、人材の再配置を含め店舗運営の効率化を図る考えだ。
同時に、パートタイマーの比率も引き上げる。「いなげやのパートタイマーの比率は約72%で、同業他社の平均を下回っている。これまで安易に社員を採用していた側面がある」と成瀬社長は指摘し、今後はパートタイマーの比率を引き上げることで人件費をコントロールする考えを示した。
さらに、プロセスセンターを活用することで店舗での作業量を減らすなど業務の見直しを進めるほか、セミセルフレジの全店導入も検討する。将来的には、レジレス化の研究や、電子マネーへの対応も進めていく考えだ。
価格政策については、さらなる売上拡大を図るため、EDLP(エブリデー・ロープライス)のカテゴリーを拡大する。「出店エリアではディスカウントストアの出店も増えており、われわれとしても価格対応をさらに強化しなければならない」(成瀬社長)として、これまでも取り組んできた冷凍食品に続いて、デイリーや加工食品のカテゴリーでもEDLP化を広げていく。「EDLPにすれば価格変更に係わる作業をなくせるので、省力化にもつながる」と成瀬社長はみる。
19年3月期通期については、当初計画を下方修正し、営業収益は前年同期からほぼ横ばいの2550億円、営業利益は同16.6%減の30億円を見込む。
表 主要SM2019年3月期中間決算
社名 | 営業収益 | 増減 | 営業利益 | 増減 | 経常利益 | 増減 | 当期純利益 | 増減 |
バローホールディングス SM事業 |
279,607 | 3.4 | 7,583 | 11.8 | 8,570 | 15.0 | 5,115 | 9.2 |
174,418 | 1.6 | – | – | – | – | – | – | |
ヤオコー | 215,889 | 5.9 | 10,845 | 7.9 | 10,641 | 7.9 | 6,947 | 4.0 |
サミット | 146,347 | 2.7 | 3,812 | -1.2 | 4,058 | 9.8 | 2,811 | 7.6 |
いなげや | 126,418 | -0.6 | -103 | – | 45 | -96.3 | -269 | – |
単位:百万円、%
※連結ベース
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