第294回 年2億の顧問料を拒み、1時間7万円の相談料を取る経営コンサルタントとは

樽谷 哲也 (ノンフィクションライター)
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評伝 渥美 俊一(ペガサスクラブ主宰日本リテイリングセンター チーフ・コンサルタント)

入会金、年会費と「用語集」

 いなげや、忠実屋、長崎屋などの中堅チェーンの株式を買い占めていき、首都圏流通業再編を目論見(もくろみ)ながら、勝負に打って出る機を逸する格好となって、窮地(きゅうち)に陥っていた不動産開発会社、秀和の社長、小林茂は、渥美俊一への接近を図った。大金を投じてまで流通業界にかかわろうとするなら強力な専門家のブレーンを持つべきだと旧知の経営者に助言されたからである。

 1980年代の終わり、日本リテイリングセンター(JRC)の運営するペガサスクラブに入るには、入会金、年会費、そして東京・南青山のペガサスビル地下1階にあった日本チェーンストア経営専門図書館の維持協賛費を含めて合計約10万円を求められた。そのうえで、『チェーンストアのための必須単語7 0 1 』( 現・『チェーンストアのための必須単語1001』。通称「用語集」)を手にすることで、渥美の教えを受ける最低限の準備が整うことになる。

 付言すると、日本チェーンストア経営専門図書館は、約2万5000冊に及ぶ蔵書を2009年に東京・千代田区にある法政大学イノベーション・マネジメント研究センターに寄贈し、その役割を終えている。渥美が他界する前年のことである。

 会員企業の個別の経営相談料は、1時間につき8万円を基本としているが、3時間以上になると1時間ごとに5万円になる場合もあるなどと規定されていた。相談に訪れる人数によっても変わることとなっている。

 現在、会員になるのに必要となるのは、入会金8000円、年会費7万2000円の合計に消費税を加えた8万8000円となっている。

 こうした手続きを度外視し、金に飽(あ)かして無手勝流に渥美への面会を小林は図ろうとした。「単なる会員企業として十把(じっぱ)ひとからげに扱われるようでは困る」と。

 まずペガサスクラブの会員にならなければ面会にも相談にも応じられないと平然と断る渥美に、小林は、年間1億円の契約で秀和の顧問にならないかと打診してきた。

 ペガサスクラブの古株の会員チェーンの再編劇とあって、渥美の関心がゼロであったはずはない。かてて加えて、業界の盟主で、ペガサスクラブの結成メンバーの1社であるジャスコ(現・イオン)の岡田卓也がいなげやの救済に乗り出してきているとあっては、知らぬ顔などできるわけがなかった。

 しかし、あからさまに札束で頬(ほお)を張るような真似をされて、百戦錬磨(れんま)のつわものがなびくものであろうか。

 年に1億円という報酬の提示に、「いらない」と渥美は素っ気なく答えた。

「ライフの清水さんからお電話です」

 電話越しの、

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記事執筆者

樽谷 哲也 / ノンフィクションライター

1967年、東京都生まれ。千葉商科大学卒業。雑誌編集者を経て、98年からフリーランスに。渥美俊一とJRC、流通企業と経営者、周辺の人物への取材は10年以上に及ぶ。「人間 渥美俊一」を渾身の筆で描く。

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