現地レポート!ポルトガルの「フードホール」が世界を席巻し始めた理由
ピーク時は観光客と地元民で大盛況
さて、筆者が訪れたのは平日の午後9時頃。ポルトガルでは午後8時くらいから夕食を取るのが一般的(実際、市中のレストランのディナータイムはほとんど午後8時スタート)なので、まさにピークタイムである。観光客のほうがやや目立つものの、会社帰りと思しき地元民も多く、通路の移動もままならないほど多くの人でごった返していた。
あまりの盛況ぶりに最初はおののいてしまうかもしれないが、利用方法はいたって簡単。好きな店で料理や飲み物を注文すると呼び出し用のページャー(小型の呼び出し端末)が渡され、料理ができあがったら取りに行くだけだ(飲み物は注文時に渡される)。
さらに、ポルトガルの国民的ビールブランド「Super Dock」のカウンターでは数種類の生ビールが楽しめるほか、ワインバーではポルトガル産の数十種類のワインをグラスやボトルでオーダーすることが可能。いずれの店でも、自分の好みの味を伝えるとスタッフがおすすめを出してくれる。とくにワインバーでは、グラスで注文する場合でもテイスティングをさせてくれるなど、サービスの質が非常に高いことに驚かされた。
店や料理によって価格は大きく異なるので一概には言えないが、市中の飲食店と比べると価格はやや割高な印象だ。筆者の場合は張り切りすぎてしまい、複数の店舗から2人で前菜を2品、メーン料理を2品、ビールやワインをグラスで2杯ずつ頼んでおよそ80ユーロ(約9600円)。実は一品一品のボリュームが多く、明らかに頼みすぎだった。周囲の人々の注文の様子を見たところ、客単価は飲み物を含めてだいたい30ユーロ(約3600円)くらいと予想される。
いずれにしても、観光客の視点で見ると、タイムアウトマーケットはとにかく使い勝手が非常に良い。街を歩き回って店を探したり、電話で予約したりする必要がないのは、時間が限られている観光客にとって好都合だ。フードホール内のどの店に行っても一定以上のレベルの味が楽しめるので、下手な観光客相手の店で高い割には味気ない料理を食べるよりは、はるかにコスパが良いと感じる。
ニューヨーク、ボストンでも開業 中東への進出計画も
リスボンで成功を収めたことから、タイムアウトマーケットは世界各国での展開を加速している。すでにアメリカのマイアミ、ニューヨーク、ボストンで開業しているほか、19年中にシカゴとモントリオール(カナダ)、20年にドバイ(アラブ首長国連邦)、21年にロンドン(英国)、22年にプラハ(チェコ)での出店も計画されている(いずれもタイムアウトマーケットのウェブサイトの情報より)。まさに飛ぶ鳥を落とす勢いだ。
最も大きな成功要因は、地元客も観光客も楽しめる空間づくりに成功している点だろう。観光スポットでありながら、地元民の日常的な食事場所としての機能も併せ持つことは決して簡単なことではない。その絶妙なバランスを保てているのは、「人気店のおいしい料理を誰もが気軽に楽しめる」というフードホールに求められる役割を最大限に全うしているからにほかならない。
そして、リスボンのタイムアウトマーケットを実際に訪れて感じるのは、テナント編集力の高さと、そこに集まる人々の熱気である。館(やかた)をつくって「フードホール」を謳うことは簡単だが、魅力ある店と料理、そしてそれを求め、楽しむ人々の熱気がそこになければ、フードホールとは言えない。
タイムアウトマーケットの日本進出は今のところ報じられていない。しかし、欧米や中東で成功を収めた後に日本に上陸することがあれば、まだ黎明期にある日本のフードホール市場に激震が走ることになるのは間違いないだろう。