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第1回 クローガーの「オカドシェッド」を徹底解説

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米食品スーパー(SM)最大手であるクローガー(Kroger)が総工費5500万ドル(約60億円)を投じて今春に稼働させた大規模カスタマー・フルフィルメント・センター(CFC)の、通称「オカドシェッド(Ocado Shed)」。ロボットを駆使することで徹底的にデジタル化された、オンライン生鮮フルフィルメントの未来を示唆する動きであり、ライバルのアマゾンやウォルマートとの手法の違いも鮮明になってきた。リテールDXで先行するクローガーのねらいを分析する。

プログラムコードが
生鮮宅配の急増対応のカギ

 クローガー本社の所在地であるオハイオ州シンシナティ近郊のモンローで本格稼働したフルフィルメント施設は、同社が投資する英テクノロジー企業のオカド(Ocado)が開発したロボットEC運用システムである「オカド・スマート・プラットフォーム(OSP)」を採用した世界初のCFCであり、3万4800平方メートルの規模を誇る。クローガーが全米8か所で展開を計画する他のCFCの先駆けとなるものだ。

 このCFCでは稼働当初の現在、400人の従業員が雇用されているが、商品のピッキング作業を担う主力は275台のロボットだ。1台で50もの商品を最短3分間でピックできる能力があるとされ、ゆくゆくは1000台以上が運用される計画である。クローガーは、こうしたロボットならではの効率性こそ、グローサリー宅配の未来であると確信しており、フロリダ州、ジョージア州、テキサス州などでも同様のCFCをオープンしてゆく。

 この大規模投資の背景として挙げられるのが、従前から進行し、新型コロナウイルスによる消費者行動の変容で加速した、オンライン生鮮宅配の利用だ。調査大手eMarketerによれば、消費者1人当たりの生鮮宅配の支出は2020年に728ドル、2021年には818ドルと順調に伸び、そして2023年には1000ドルの大台を超えると予想される。

 オカド傘下のオカド・ソリューションズのルーク・ジェンセン最高経営責任者(CEO)は「クローガーのCFCにおける在庫管理と宅配の背後には、(ロボットを動かすための)莫大な量のプログラムコードが存在する」と語る。このように、増加する生鮮宅配の需要に柔軟に対応するためには、アマゾン(Amazon)やウォルマート(Walmart)がコロナ禍による需要爆発で過去1年間に行ってきたような、数万人規模でフルフィルメント・センターの従業員を増やす対策だけでは不効率であり、ソフトウェア面における運用の進化が求められているとのクローガーの読みがある。

クローガーは生鮮宅配に力を入れる。アマゾン、ウォルマートとも一線を画した戦略をとる

鮮明化するアマゾンや
ウォルマートとの違い

 クローガーが推進するCFCのデジタル化路線は、生鮮宅配のライバルであるアマゾンやウォルマートのDXとは一線を画すものだ。

 アマゾンがレジレス決済の「ジャスト・ウォーク・アウト(Just Walk Out)」技術や「手かざし決済」、ラスト・ワンマイル区間における自動運転の配送カートなどに注力し、ウォルマートが小規模の自動フルフィルメント・センターやラスト・ワンマイルの自動運転トラックなどの導入など、どちらかと言えばリテール下流でDXによる効率化を進めている。それに対し、クローガーは上流のCFCにおける能率を高めることで需要に対応しようとしているからだ。

 この面で、クローガーは圧倒的な優位にある。人力では1人が1時間に数十点の商品をピックするのが精いっぱいだが、前述のように、オカドが開発したソフトウェアで運用されるCFCでは、1台のロボットが50もの商品を最短3分間でピックできるからである。

 筆者はウォルマートで買物をする際に、客に交じって人間のピッカーが、オンライン注文を受けて棚に置かれた商品を買い物カートに入れている様子をよく見かける。だが、そうした商品は店舗内の倉庫から人手を使って搬出し、棚に並べたものだ。さらに遡れば、配送センターで人が仕分けし、店舗別にトラックで運送され、店舗内の倉庫で従業員が荷ほどきをしたものである。それを、また人手でピックして袋や箱に詰めるのだから、何重もの手間や人件費、時間がムダになっていることは、容易に想像できる。生鮮宅配の需要がさらに伸びれば、フルフィルメント分野の効率や収益でウォルマートは、クローガーにかなわないと思われる。

クローガーは全米の主要拠点にデジタル化されたオカドシェッドを建設することにより、上流において徹底的に効率と収益を追求する

オンラインリテールの未来は
ソフトウェア開発力にあり?

 また、アマゾンも傘下のホールフーズに加え、自前の店舗を展開し、そうした店に倉庫・配送機能を持たせている。だが、クローガーは全米の主要拠点にデジタル化されたオカドシェッドを建設することにより、上流において徹底的に効率と収益を追求する構えであるところが、相違点だ。

 クローガーのデジタル担当取締役であるヤエル・コセット氏は、オカドシェッドの稼働に当たり、「弊社は、実店舗の買い物体験と、デジタル体験のベストな部分を組み合わせた、シームレスなエコシステム構築を目指しており、オカドのテクノロジーと人工知能(AI)で、そうした体験をさらに高める」と語っている。オンラインリテールの成否が、ソフトウェア開発力、つまりプログラムコードの集積となる未来が描かれている。

 クローガー・オカド連合のDXの開拓者としての試みが吉と出るかは数年内に判明するだろうが、「上流DX」対「下流DX」の勝負の行方が、大いに注目すべきであることは間違いないだろう。