[9日 ロイター] – 新型コロナウイルスの世界的流行をきっかけに、人が職場に入る際に発熱していないか素早くスキャンできる赤外線カメラの需要が急増している。しかし、メーカーは、部品供給の支障に直面する中で生産対応に追われており、病院などの顧客を優先せざるを得ない状況だ。
食品の米タイソン・フーズや半導体の米インテルといった大手企業は、経済活動が再開した時に備えて赤外線カメラを試し始めた。
赤外線カメラメーカーの米FLIRシステムズ、英サーモテクニクス・システムズ、イスラエルのオプガル・オプトロニック・インダストリーズといった企業では売り上げが急増している。
従業員の体温測定には、手で持って操作する体温測定器を使うのが一般的で、米通販大手アマゾンや小売り大手ウォルマート・ストアーズがこうした方法を採用している。
しかし、この方法では時間がかかる上、測定者が社会的距離として推奨されている1.8メートルよりも従業員に近づいて作業する必要がある。
一方、赤外線カメラは、周囲の気温に比べてどの程度のエネルギーを発しているかを測定するもので、人が接触せずに測れるため安全性が高い。玄関口などに入ってくる人をスキャンし、警告音が出た人は体温計によるチェックを受ける。
インテルはロイターに対し、イスラエルにあるコンピューターチップ工場で使うため、複数メーカーの赤外線カメラを検討していることを明らかにした。タイソン・フーズは9日、150台以上の赤外線カメラを購入して4つの施設に設置したと発表。同社広報担当者は「最終的には当社のすべての食品生産施設に少なくとも1台ずつ設置する見通しだ」とした。
需要は急増、部品供給は追いつかず
2003年にSARS(重症急性呼吸器症候群)の感染が拡大した後、赤外線カメラ技術はアジアの空港で広く使われるようになった。赤外線カメラシステムの料金は、カメラ、ディスプレー、その他のハードウエアを合わせて1台約5000―1万ドル。
30年以上前にサーモテクニクスを創業した医師のリチャード・サリズベリー氏によると、同社の第1・四半期の販売台数は平年の3倍以上に達した。
FLIRの産業向け部門のフランク・ペニシ社長は、マレーシアその他でロックダウン(封鎖)により部品供給が途絶える中で「製品需要が爆発的に増えている」と説明。「感染拡大阻止に奮闘している病院や医療施設を優先せざるを得なくなっている」と述べた。
イスラエルのオプガルは、産業設備の保守点検用に使われていた赤外線カメラを、体熱チェックに使えるよう改良した。事業開発部門のディレクター、エラン・ブルーステイン氏によると、過去2カ月間の販売台数は1000台で、旧型を2013年発売以降に売った累計台数よりも多くなった。
万能ではない
ただ、開発メーカーは、赤外線カメラができることは第1段階のスクリーニングであり、発熱の検知に万能ではないと釘を刺す。
赤外線カメラは体温の絶対値ではなく、対象同士のエネルギー発散量の差を測るものだ。例えば寒い朝に戸外から入ってくる労働者と、外が暖かくなった昼に入室する労働者とでは環境が異なるため、定期的に調整を加える必要がある。
警告音が鳴った後には、医療レベルの体温計で体温を確かめる必要がある。しかも新型コロナ患者の中には発熱の症状を示さずに感染を広げてしまう人もいるし、薬局で買える薬で熱を下げることもできる。
赤外線カメラの新興開発企業には広い場所で多くの人々の体温を一斉にスキャンできると宣伝するメーカーもある。しかし、赤外線カメラを軍や企業に対して何十年も供給してきた実績を持つFLIR、サーモテクニクスやオプガルの担当者は、そうした広域のスキャンが発熱の探知に求められる国際的な正確さの基準を満しているかどうかに懐疑的だ。
「(広域のスキャンが難しいとしても)多くの企業で求められているのは玄関や廊下での検査であり、それができればとりあえずは十分だ」とオプガルの事業開発担当者、エラン・ブルーステイン氏は話している。