メルカリ(東京都/山田進太郎社長)は2020年6月、「新宿マルイ本館」(東京都新宿区)へ同社初となる旗艦店「メルカリステーション」を出店した。メルカリステーションが提供するのは“モノ”ではなく、同社が提供するフリーマーケットアプリ「メルカリ」の使い方や便利さを実際に試してもらう“体験”で、近年拡大しつつある「体験型店舗」のひとつだ。メルカリが実店舗を通じて提供する体験や、メルカリステーションからみえてくるメルカリの顧客獲得戦略についてレポートする。
「メルカリ」の楽しさを知ってもらい
発送に関わる顧客の手間を省く
フリーマーケットアプリ「メルカリ」は、2013年3月にスタートしたサービス。サービス開始から6年半で月間利用者数は約1538万人、年間流通総額は4900億円を超えるなど順調に規模を拡大している。サービスの概要は、アプリを通じて個人間で不用品などを売買するネット上のフリーマーケット。手軽さや、条件によっては完全匿名で売買ができることなどから人気を集め、20年1月には累計出品数が15億品を突破した。
そんなメルカリの実店舗、メルカリステーションが提供するサービスは主に以下のようなものだ。メルカリをまだ使用したことがない層に向けて「はじメルサポート」「メルカリ教室」を実施。「はじメルサポート」では、アプリのダウンロードや会員登録、使用方法など基本的な内容をスタッフが個別に指導。ワークショップ形式で実施する「メルカリ教室」では、実際の出品を講師が一緒に行い、売れた後の発送方法や売上金の出金方法など、より実戦的で役に立つ知識を提供する。
既存ユーザー向けのサービスとしては、梱包の工夫や適切なサイズの梱包材を提案する「梱包ブース」、発送を手間なく行える「メルカリポスト」、まだ十分慣れていないユーザー向けに発送を1からサポートする「メルカリポストプラス」などを実施している。
これらのサービスを目的に月間約1000人がメルカリステーションを利用しており、再来店率も高いという。メルカリで物を探す楽しさ・不用品が売れる楽しさを多くの人に“体験”してもらう一方、面倒に感じがちな発送などの手間を省く提案をすることで、より身近で便利なサービスとしての立ち位置を獲得するねらいだ。
オンラインサービスがオフラインでの接点を重視する理由
メルカリは2019年から、サービスをより普及させるため、あえてオフラインで顧客と接点を持つことを意識してきた。同社の調査によれば、「(メルカリのサービスを)使ってみたいが、まだ使用するに至っていない」という潜在的顧客は3610万人にのぼり、この層の取り込みが今後の事業拡大のカギを握るとみている。
ジャストシステム(東京都/関灘恭太郎社長)が運営するマーケティングリサーチサイト「Marketing Research Camp」が独自に行った、CtoCサービスの利用に関する調査「Eコマース&アプリコマース月次定点調査(2020年8月度)」(以下:Eコマース調査)によると、メルカリを「現在使用している」と答えたユーザーは男性47.9%に対し女性57.6%で、メルカリは女性から多く支持されていることがわかった。「マルイ」など比較的女性がよく訪れる場所への出店は、潜在的顧客の中でも感度の高い層へ働きかけ、何気なく立ち寄ってもらうところから利用へとつなげるのに役立ちそうだ。
また、メルカリの調査によると、年代別1人あたりの平均月額売上額が最も高いのは意外にも60代で、20代女性の1万247円に対して60代女性では2万9788円と約3倍の開きがある。しかし、前述のEコマース調査によると、60代のユーザーは33.9%と全年代利用率51.8%を大きく下回る。利用の障壁になっているのは、新しいサービスへの「とっつきにくさ」や、「ネットでの売買に対する不安感」など、高年齢層が抱きやすい感覚だと考えられ、導入のハードルを下げ、対面でのサポートも受けられるメルカリステーションには、“高年齢層にも安心感して利用してもらえるサービス”としての認知向上効果も期待できそうだ。
メルカリステーション以外でも“体験”の提供を拡大
新宿マルイ本館への出店に続き、7月には「ららテラス武蔵小杉」(神奈川県川崎市)にもメルカリステーションを新たにオープン。10月には、店舗の空きスペースなどへの出店を目的に、最小約2畳の面積で従来のサービスのうち主要なものを提供する、新フォーマットのメルカリステーションを「Panasonic KURA_THINK」(神奈川県藤沢市)内に出店した。今後も店舗数は増やしていく一方で、東京・神奈川のファミリーマート8店舗でメルカリポストとメルカリ教室設置の実証実験を行ったり、オンライン版メルカリ教室を開催したりと、メルカリステーションに限らず顧客に“体験”を提供できるルートを充実させていく構えだ。