スーパーマーケットと飲食業態を組み合わせ、アルコール類の提供も行うという試みは近年都市部の店で少しずつ見られるようになっている。しかし「買い物客が目をひそめる様な酔客が居座るのでは」と言ったような不安を抱え、踏み切れない企業も多いだろう。今回は阪急オアシスのキッチン&マーケット(通称・キチマ)業態の2号店から、スーパーマーケットと飲食業態の組み合わせについて考えていきたい。
スーパーマーケットとバルが融合
クラフトビールのタップが数台並ぶカウンターと、その場でスツールに座って焼肉が楽しめるスペース。その左手奥にはテーブルとイスが並べられ、思い思いにワイン片手におしゃべりをしたり、フードに舌鼓を打ったり。奥の方では、サラリーマングループの若手が、お酒を補充するべく、彼らの座席の隣にある冷蔵ケースから輸入ビールやハーフボトルのワインなどを品定めしている姿も見える。
まるで街中のカジュアルなバルのような雰囲気を持つが、ここは歴としたスーパーマーケット、「阪急オアシスふくまる通り57店」の2階だ。その証拠に、飲食スペースから、各種調味料やレトルト食品といったいわゆるグロサリーのゴンドラが縦に並んでいるのを見ることができる。店内には鮮魚の対面コーナーがあるし、実は焼肉スペースは、精肉売場の一角にあたる。
従来の阪急オアシス店舗と違うところは、スーパーマーケット「阪急オアシス」とフードホール「キッチン&マーケット」 の融合をコンセプトに売場づくりを行う点だ。また、店舗外観ではこの2つのブランド名を掲げ、店内では数カ所で「キッチン&マーケット」のファサードを使用している。
どんな店なのだろうか?
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キッチン&マーケットとスーパーマーケットをどう融合させたか!?
横丁形式のスペインバルも
阪急オアシスの「キッチン&マーケット」といえば、1号店はJR「大阪」駅直結の商業施設「ルクア大阪」内に、「食と飲食の融合」をテーマに掲げた、食品専門店とフードホールを融合させた店舗。日本有数の乗降客数を抱えるターミナル駅直結ということもあり、常にお客で賑わう繁盛店だ。
その反面、「これはスーパーマーケットなのか?」と言われると、首を縦には振りづらい。一杯80円のエスプレッソなど価格はこなれているものの、食のテーマパークの趣きが強く、特殊な商圏で成立する業態だからだ。
その阪急オアシスが、キチマ2号店を大阪駅からわずか一駅、「グルメ感度の高い人が集まる」街として名高いJR福島駅(大阪府)周辺に開業した。
2号店の名前は、「阪急オアシス福島ふくまる通り57店」。JR西日本と阪神電鉄という関西を代表する2つの大手鉄道会社が共同開発したプロジェクトの中核施設で、ホテル阪神アネックス大阪、阪急オアシス、メディカルモールからなる。
阪急オアシスふくまる57店の特徴は、すでに触れたが、スーパーマーケットとキッチン&マーケットの2つの顔を持つ点だ。店舗の出入り口は2箇所あり、大通り沿いの出入り口から入ると、青果売場が目の前に飛び込んでくる、いわゆるスーパーマーケットのイメージ通りの売場。
一方、高架下に沿って新旧の飲食店が立ち並ぶふくまる通り沿いから入ると、“キッチン&マーケット”のロゴとともにきらびやかな総菜売場とベーカリーが目に飛び込んでくる。
また、阪急オアシスの並びに横丁形式で立ち並ぶスペインバル「merca PASEO(メルカ・パセオ)」も実は阪急オアシスのスペースで、きちりが運営する「キッチン&マーケット」ゾーンだ。約30mほどの横丁は「パエリア」「ピッツァ」「ハム&チーズ」「ピンチョス」「ローストミート」の5つのエリアからなり、各エリアで購入したものを店内外に設置した座席で自由に飲食できる。冒頭の阪急オアシス2階、バーで食べることも可能だ。席数は1階が外も合わせて約108席で、店内2階のイートインが約50席となっている。
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なぜアルコールを提供しても“平和”なのか!?
なぜアルコールを提供しても“平和”なのか!?
さて2階のキッチン&マーケットゾーンにフォーカスしてみよう。ドラフトビールやハイボールが注文できるドリンクカウンターでは、クラフトビール6種を含め8タップ揃えており、どれも一杯500円(税抜き、以下同)とリーズナブル。焼肉は焼き台が5人分あり、隣接する肉売場で好きな肉を購入(50g~)して、思い思いに楽しむ。
平日木曜日の夜20時頃に訪問したところ、イートインスペースはほぼ満席。2人組の友人同士やカップル、4~5人のグループ客まで幅広く、主には店内でおつまみとお酒を都度購入して楽しんでいる人が多かった。
お酒が入っているのでおしゃべりする声が多少大きな人もいたが、いたって平和な、ちょっとおしゃれで活気ある飲食店というイメージは終始壊れなかった。客層も良く、小綺麗な身なりをした人やオフィスワーカーがほとんど、夕方にも訪れたが、この時は有閑マダム然とした女性客の2人連れや友人同士などが多かった。これなら、普通にスーパーマーケットとしても買い物しやすいし、ちょっと1杯を楽しむバルとしても、昼夜問わず気軽に使える。
店の立地環境と店内の雰囲気、バルの作りが結果的にうまい具合に客層をコントロールできているのではないかと思った。この業態は立地を選ぶが、それさえ合致すれば、圧倒的に高い「経験価値」を提供できるため、同質化することのないタイプの店だと言えるだろう。