イオンフードスタイルに息づく「D」

宮川耕平(日本食糧新聞社)
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 ダイエーが店の看板を「イオンフードスタイル」に変えたら、それはイオンでしょ? いえ、運営しているのはダイエーなんです。

 そのことを意外に思う人もいるでしょうが、だとしても中身はイオンでしょ? そう食い下がるかもしれません。プライベートブランド(PB)はトップバリュだし、電子マネーはWAONだし、2030日は5%オフだし。

 いまやダイエーの新規出店・改装店は、もれなくイオンフードスタイルです。186店舗(19年4月末)のうち32店が同名になりました。やがては消えゆく「D」の看板・・・。ただ、看板にイオンフードスタイルを掲げながらも、売場には「D」が残っています。

 19年3月オープンの八王子店(東京都八王子市)の場合、ベーカリー売場は「D’sベーカリー」、そこに陳列するピザは「D’s Pizza」。イートインスペースの名称は「café de D」。イオンの「A」でも、フードスタイルの「F」でもない。「D」なんです。ただの名称に過ぎないでしょうか? しかしコーナー名よりも異なるのは、売場で扱う商品です。

イオンフードスタイルの看板のもと、Dの伝統は息づいている
イオンフードスタイルの看板のもと、Dの伝統は息づいている

ヘルス&ウエルネスも独自色で

 総菜売場で扱う商品は、イオンと大きく異なります。イオングループ共通の商品戦略である「ヘルス&ウエルネス」をテーマとした商品にも、ダイエーの独自性が見えます。

 八王子店に導入された新商品から例を挙げると、1日に必要な野菜量の3分の1を使用した「ベジプレート」シリーズや、野菜ソムリエ監修の「カラダキレイ美人ちらし」などです。これらの米飯には、トップバリュとして商品化されているカリフラワーライスやブロッコリーライスが加えられています。健康志向という特徴だけでなく、グループのシナジーとオリジナリティのバランスという点でも面白い事例です。

 「バルDELI」のコーナー名で展開するショートパスタや、ローストビーフをメインに1品料理に仕立てた「ローストビーフディッシュ」シリーズなど、おつまみにも食事にも使えるように開発した商品群もダイエー独自のものです。このようなオリジナルメニューの商品化を支えるサプライチェーンにも独自の仕組みがあります。中核を担っているのは生鮮・総菜加工の子会社アルティフーズです。

独自メニューで展開するヘルス&ウエルネス弁当
独自メニューで展開するヘルス&ウエルネス弁当

自前の食品バリューチェーンを駆使

 アルティフーズのカバー領域は広く、精肉・水産品の加工から味付肉などの半調理品、惣菜全般の供給に加え、数年前からはパッケージ化された冷食惣菜も開発しています。イオン出身の近澤靖英社長が「ソフト面の実力、ノウハウの蓄積量は業界でもダントツ」と自信を示すほどで、窒素充填で販売期限を長期化するMAP包装技術を用いた生鮮品は、一部をイオンにも供給しています。

 また、ベーカリー製造の子会社ボンテは、2年前にダイエー川崎プロセスセンター内に製造ラインを新設しました。そこで作る食パン「白金(プラチナ)」は、トーストせずにほのかな甘味を味わう最近のトレンドに合わせた商品です。

 精肉のオリジナルブランド「さつま姫牛」・「さつま王豚」を飼育するのは子会社の鹿児島サンライズファームです。これらの肉を加工して店舗に供給するのもアルティフーズで、1970年代に構築した独自のバリューチェーンです。歴史のある牧場ですが、最近もITを導入して1頭ごとに食べる飼料の量を「見える化」し、生産効率だけでなく牛の健康管理に役立てるといった投資を続けています。

AI発注をモノにする未来へ

 食のバリューチェーンを構築しているからこそ、店頭の発注精度を高めることが重要です。19年度はAIによる需要予測型の発注システムを実験します。近澤社長は「売数を基に予測するシステムでは実績のある商品しか扱えない。仮説に基づく販売予測をAIに任せられるかどうかは、これからのシステムの肝になる」といいます。

 イオンフードスタイルの看板のもと、かつてダイエーが構築したシステムやノウハウは動き続けており、進化もしています。近澤社長が自ら「ダイエーには力があるんや」と社員を焚きつけており、Dの伝統を消そうとはしません。

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