中国のECにおいて有名人が商品のアンバサダーになることで、売上が爆上がりする現象が起きている。熱心なファンがタレントをプロモーションに起用した商品を購入することでタレントの価値向上に貢献する「ファン経済圏」が増加している。近年「ファン経済圏」が加熱しすぎて様々な問題が発生したため、中国当局からの規制が入る事態となっている。今回はタレント×商品プロモーションのいまをご紹介する。
マウスウォッシュが爆増、带货(購買力という意味)タレントの力
2021年618で、マウスウォッシュの売上が前年同期比560倍、ブレスウォッシュの注文数が14倍まで跳ね上がる記録を残した。マウスウォッシュが突然売上を大きく伸ばしたのには理由がある。肖战(XiaoZhan)というタレントがオーラルケアブランドUsmileのグローバルブランドアンバサダーに就任して間もないタイミングだったことが要因である。
Usmileは、618セールの初日の6月1日に販売量が1億元(約17億円)を超えた唯一のブランドである。中国では有名人が商品のアンバサダーになると、ファンが限定パッケージを求めるのに加えて、タレントの影響力を示すために大量に購入するなど、売上の波がいきなり押し寄せてくることがある。タレント起用がきっかけで莫大な購買行動を生み出すことをネット流行語で「带货」と呼び、購買をけん引するタレントは带货タレントと言われている。
带货力の強いタレントを起用すると大きく売上に影響するため、その実績からタレントの価値が上がり、契約金額の上昇や契約数の増加というスパイラルが起きる。その構造から熱心なファンたちは推しているタレントが起用されたらその商品を購入し、タレントの価値向上に貢献していくという「ファン経済圏」がこの数年顕著見られるようになった。
ファン経済圏がオーディション番組の台頭により増長、問題視される事案が発生
前回メンズコスメやファン経済圏でご紹介した、中国で大きな話題となった「創造営2021(Produce Camp 2021)」や「青春有你」といった男性アイドル発掘番組は「ファン経済圏」を大きく加速させ、自身の「推し」をスターダムに上げる競争自体が一大ブームになった。その結果倫理的に問題視される事案が続いた。
一例をあげると、日本でもAKB商法と言われた、CDに投票権がついており大量に購入するが大量に廃棄されたのと同じように、「青春有你」という番組で投票権付きの乳製品を大量購入して中身をそのまま廃棄する動画が拡散され大炎上した。AKBと異なるのは大量廃棄されたものが「飲食物」だったことだ。もともと中国では宴会等で多めに食事を注文し残す文化だったが、世界的なフードロス問題や食糧難などの背景もあり、2020年には食事を残さずに食べようと呼びかける運動「光盤行動」が掲げられていた。さらに事件の数週間前に「反食品浪費法」という食べ物を無駄にしてはいけないという法律が成立したばかりであり、倫理観だけでなく罰則も伴い大きな議題となった。中国メディアによると「青春有你」の上位9名の投票数は計5600万超、対象商品は約2億元相当(約32億円)が投じられた計算になる。
ファン経済圏がとうとう規制対象に
熱狂的人気と問題から、中国网信办は2021年8月、SNSなどのタレント人気ランキングを中止するように発表した。ランキングプラットフォーム自体が消滅したことによりタレントの人気ランキングが上位になるようにファンによる毎日の書き込みや書き込みの呼びかけをすることがなくなった。ファンが誕生日や記念日に街中のディスプレイにメッセージを出すための集金なども禁止になった。
中国のタレントは「売上力」は正義ということもあり、自身がイメージキャラクターを行った商品がどれくらい売れたかなどをSNSで公表していたが、競争の一助となる可能性があるため、売上数量の公開もNGとなった。さらに9月には、中国广电总局がオーディション番組の放送を禁じるよう放送局に命じた。
目まぐるしいスピードで変化していくタレント周辺とファン経済圏。今後带货といわれていたタレントたちはどのようなポジションになっていくのか。W11で同じような驚異的な記録が出てくるのかなど、タレントのキャスティングによる商品プロモーションは岐路に立たされている。
日系ブランドコンサルとして、上海に拠点を構え、ブランド戦略立案とクリエイティブ制作を提供する。多数のリサーチ案件を通じて消費者、マーケット動向を注意深く観察し、中国市場に合わせたブランドカルチャライズ®を数多く手掛ける。上海、東京、香港に拠点あり。